第7話 面接

 屋敷の執務室。

 椅子に座ったルカは、テーブルの上に居るルビーに向かって話しかけた。


「いいかルビー、お座りだぞ」

「きゅん!」


 ぴし!

 綺麗な姿勢で座るルビー。

 ルビーに向かって、ルカは手を差し出した。


「お手!」

「きゅん!」

「よしよし、偉いぞー」


 ルビーの頭をごしごしと撫でながら、ルカはエサを差し出した。

 ルビーは嬉しそうに、もぐもぐとエサを食べる。


 コンコン。

 執務室のドアが叩かれた。

 ドアの向こうから、コハクの声が聞こえる。


「ルカ様。面接の準備が整いました」

「分かった。入ってくれ」


 ルカは答えながら、ルビーを机の下に隠した。

 これから入って来る人たちが、幻獣を見たらびっくりするかもしれない。


 がちゃり。

 ドアを開けて入って来たのはコハク。

 その後ろに、二人の男女が付いてきた。


 一人は金髪の男。

 もう一人は銀髪の女性。女性だが男装をしている。


(この二人のどっちかが、俺の家庭教師になるんだよなぁ)


 彼女たちは、ルイの家庭教師の求人を見てやって来たのだ。

 なんと、二人とも魔法剣士。

 剣術も魔術も教えられるらしい。

 二人とも家庭教師としては、申し分のない実力を持っている。


「それじゃあ、席に座ってくれ」

「「失礼します」」


 二人ともいい感じなので、見極めるために面接の場を設けた。

 さっそく質問タイムだ。


「まずは軽く自己紹介を教えてもらえるか? じゃあ、そっちの彼から」


 金髪の男は、スッと胸を張って答えた。


「私は『ブラン・ビアード』。王国騎士団に所属しておりました。剣も魔法も扱えるので、ルカ様の家庭教師にも、いずれ設立される騎士団の団長にもふさわしいと自負しております」

「王国騎士団に所属していたのか、凄いなぁ」


 ベスティア王国の騎士団は、特に実力が秀でていることで有名だ。

 特に現職の騎士団長が、とんでもなく強いらしい。

 そんな騎士団に所属していたのだから、それだけ優秀なのだろう。


「そちらの彼女は?」


 銀髪の女性は、ちらりとブランを見た。

 気まずそうな眼をしている。

 そして具合が悪そうに答えた。


「私は『ヴァローナ・ロードナイト』。彼と同じく、王国騎士団に所属していました。剣も魔法も問題ありません」


 なんと、こちらの彼女も王国騎士団に所属していたらしい。


「つまり、ブランとは同僚だったのか?」

「所属している部隊は違いましたが……そうです」 

「おぉ、凄い偶然だな!」


 経歴的には二人とも互角。

 さらに選ぶのが難しくなってきた。


「ちょっと待って頂きたい」


 ブランは声をあげると、ニヤリと笑いながらヴァローナを見た。


「彼女は重要なことを隠しています」

「重要なこと?」


 ルカは首をかしげる。

 『実は女の子である!』とかだろうか。

 いや、胸を見れば一発で分かるのだから違うか。


「彼女は幻獣の血を引いているのです!」

「な、なんだと!?」


 ルカは興奮気味に反応した。


 幻獣の血を引いており、その力が色濃く発現する人はたまにいる。

 ルカとしてはロマン溢れる存在だと思う。

 だが、社会的にはそうでもない。


 そう言った人々は、災いを招くという迷信が定着している。

 そのせいで、やや嫌われ気味。

 『半獣はんじゅう』などと呼ばれることも多い。


 ストーリーの本編でも――。


(あれ、メインキャラの誰かが幻獣の血を継いでたはずなんだけど、思い出せないな……まぁ、いいか)


 それよりも大事なのは、ヴァローナのことだ。

 ヴァローナはなんだか気まずそうにしていた。


(強気そうな男装美人が困った顔をしているのは、ちょっと萌えるな……)


 それはともかくだ。


「ヴァローナさんは、どんな幻獣の血を受け継いでいるんだ?」

「東方の国に出現する、ヤタガラスと呼ばれる幻獣だろうと言われました」

「ヤタガラス……⁉」


 ゲーム中には出現しなかった幻獣だ。

 未知の幻獣。

 そう考えるだけで、ルカはワクワクが止まらない。


(可愛いし、幻獣だからヴァローナさんを選びたいが……それだけでブランを蹴るのも可哀そうだなぁ)


 と言うことで、ルカはその後も面接を続けた。

 しかし、ヴァローナが幻獣の血を引いている以外に、明確な判断材料が出てこなかった。


 そこで、ルカはこうすることにした。


「うーん。正直言って、どちらも良い。俺では決めるのが難しい。最後は模擬戦をして決めようじゃないか」

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