不登校の友達のこと
この仕事はじめての休みだ。
次の仕事を探すわけでもなく、今後どうするか考える期間を与えてくれるのは良心的だと思う。まぁ、その期間は私の有給から出ているわけだが。
今日は、事情を説明して障害手帳をもらえないか医師と相談してみる。あと免許更新と布団干し。
中学三年生のとき、不登校の友達がいた。
同じ部活の友達と、保健室での友達(この頃私は休み時間は図書室ではなく保健室に遊びにいってた)を通して知り合った。
3年生のとき同じクラスになったが、彼女は話しかけても反応せず、教室で無言で下を向いていた。保健室ではもっとラフな感じなのに。
そんなある日、彼女は口を開いた。
「新一と平次、どっちが好き?」
人気アニメ、コナンの話だ。質問されたと思わなかった私は聞き返してしまった。彼女はコナンが好きだった。
話の内容は覚えていないけれど、その時の感動は覚えている。ようやく心を開いてくれたのだと。
それから、彼女と私は色んな話をした。話すたびに彼女の顔が明るくなっていくのを見るのが嬉しかった。
けれど、彼女は突然不登校になった。部活を辞めた後だったから6月か7月の頃だったと思う。
もともと不登校と聞いていた。私は保健室のもうひとりの友達の提案で、彼女の家に毎日手紙を届けていた。ノートをちぎりとった、一辺がギザギザの紙に、マス目はみ出しながら2人でいろいろ書いた。また会いたいとか、そんな内容だったと思う。手紙というにはチープすぎるものだったが、思いの丈は込めた。それを3つ折りにして、投函した。
そんな日が2週間くらい続いた。彼女はまた学校に顔を出してくれた。
秋の頃には、彼女とはすっかり仲良くなっていて、毎日保健室に来ては色んな話をした。彼女は結構下世話な話が好きで、よく先生をからかっては笑っていた。私にはなにがおもしろいか分からなかったけど。彼女がケラケラ笑ってくれるから、そのからかいが面白く感じて、私も笑った。彼女に笑ってほしくて、彼女の好きな下世話な話を事前に考えて、披露した。彼女の大爆笑が返ってきたときは、とても嬉しかった。
それでも彼女とはいろいろあって。彼女の前学校(言い忘れていたが、彼女は転校生だ)の嘘の情報を信じて、保健室仲間と前学校の偽の情報を流しかけたこともあった。あと、運動会で彼女がびっくりするほどの足の遅さだったから順位を落としたとか。意外とあまり無かった。
それでも、単純だったわたしは、不登校の彼女が毎日学校に来てくれるだけでよかった。それだけで彼女は頑張ってくれてるのだと思った。元々ぼっちだったから、味方は彼女しかおらず、彼女が何かと言葉をかけてくれるだけで、安心感があった。
高校が別々になった。彼女の高校はいわゆる地元の底辺校というやつだった。高校が別れたあとも私たちは会った。そのときはじめて彼女の私服姿を見た。結構オシャレをしていた。話を聞くに、高校でも彼女は1人だと言っていた。LINEでもやりとりをした。
そんなある日、彼女の高校で文化祭が開かれた。LINEで前々から彼女の文化祭の話を聞いていたから、行くと言った。
ただ、その時期、私はあまり外に出たくなくて、夢中になっていたゲームがあった。
その日もゲームに夢中すぎて、彼女との約束を忘れていたのだ。
LINEを見れば、彼女からなんども催促が来ていた。気づいたのは文化祭が終わったあとのことだった。
私はごめんと返事した。
それきり彼女との交流はない。
彼女は文化祭で私のために何かを用意していたらどうしよう。そもそも私のせいで人間不信になって、また不登校の頃に戻って居たらどうしよう。彼女は日々希死念慮を口にしていたから、自殺していたらどうしよう。大人になっても仕事できず引きこもっていたらどうしよう。
ありとあらゆる思いがいまでも胸中を駆け巡る。人の人生を取り戻すのは難しいけれど、一瞬で壊すのは簡単だ。
私の人生で1番の罪悪感のある出来事はこれだ。この一点だけで、私は大罪人確定だ。
いまでも彼女のことを思い出しては、お悔やみ欄を検索して、彼女の名前がないことに安堵する。彼女の家に行くには面の皮が厚すぎる気がして、勇気も出ない。
今日もまた、彼女のことを思い出していた。洗濯が終わったので、そろそろ布団を干そう。
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