第24話 2回目の配信
メンタル面は好調とは言えないが、今日は配信の日だ。
すっぽかしてもいいけど、約束を守らない奴だと思われたくはない。
『始まりのダンジョン』の51階層で配信の準備を整えていると、ウェルヴィが自宅から直通の穴を通ってやって来た。
「この格好だと冷えるな。コーンスープ持ってこよ」
どんな格好だよ。
俺はウェルヴィの方を見ずにカメラの高さやマイクの調整を終え、着替えてからソファに腰掛けた。
「よう」
〈ラフすぎるだろwww〉
〈キャラを守れよw〉
〈こんな奴が魔王なんて信じられねぇよ〉
〈それでもAimerの彼氏か〉
流れていくコメントの中でも『彼氏』というワードは嫌でも目に止まってしまう。
「誰の彼氏だって?」
〈Aimerだよ。この前、戦ったんだろ〉
「あぁ。なんで、あいつの話になる?」
〈お前、SNSやってるくせに何の情報も知らないのな〉
〈炎上してただろうが〉
〈おれの煽りDMに返してくれたじゃん〉
〈俺もだよ〉
〈草〉
〈魔王様、暇なのwww〉
今日はやけに敵対するコメントが多いな。
こいつら本当に俺の視聴者か?
シオンと関わってから初めての配信だから覚悟していたが、これは想像以上だった。
「私はSNSはやらない主義だ。もちろん、エゴサもしない」
〈『ラビ@魔物はお友達(ご本人)』ってアカウントお前だろ〉
〈俺もフォローしているぞ〉
〈フォロワー数5万超えてんじゃんw〉
〈ご本人ってなんだよw〉
そういえばウェルヴィがSNSをやってみたいと言っていたことを思い出した。
あのときは「好きにしろ」と適当にあしらったけど、本当にアカウントを開設していたとは……。
「そのアカウントは私ではなく、あいつが管理している。まさか、DMまで返していたとはな」
〈えぇえぇぇぇえぇぇぇぇぇ〉
〈魔兎様が!?〉
〈魔兎様、SNSもできるのかよw〉
〈俺、魔物とレスバしちゃったよ〉
〈それもう冒険者だろ〉
〈勝った?〉
〈負けた。魔兎様、煽りスキル高いんだよ〉
〈くっそわろた〉
なんてことだ。
俺よりもリスナーとのコミュニケーションを取っているなんて。
帰宅時にご満悦なのはレスバとやらに勝ったときで、不機嫌なときは負けたときなのか……?
〈今日、魔兎さまは不在ですか? それともカメラ外ですか?〉
視聴者からの質問に答えようとしたとき、ウェルヴィに手招きされた。
「なんだ? え、コーンスープ? いらん。コーンポタージュなら飲む。うん、ありがとう」
〈なんだ、今の可愛いやり取り〉
〈魔兎さまですか!?〉
〈お前、魔兎様にカップスープ淹れさせてるのかよ!〉
〈映せよぉぉぉおぉぉぉ〉
カメラ内にウェルヴィの手だけが映り、コーンポタージュの入ったマグカップを置いてくれた。
「あー、ダメだ。今の姿は映せない。BANされる」
〈ゴクリ〉
〈どんな格好してるんだよw〉
〈俺らが判断してやるから映してみろって〉
〈自分、全裸待機いいっすか〉
俺の視聴者は男が多いらしい。
こういう連中にキャミソール姿のウェルヴィを見せるわけにはいかない。
それにしても、随分と人間の世界に馴染んだものだ。
今では一人で買い物に行くようになったし。確か、俺がランジェリーショップに入るのを拒んだことがきっかけだったはずだ。
「安心しろ、裸ではない」
〈何を安心しろっていうんだよ〉
〈てめぇ、この野郎。Aimerちゃんと魔兎さまの二人を独り占めなんてずるいぞ〉
〈もう投げ銭しないからな〉
そうだった。
今回は重大な話をする予定だったんだ。
「もうお金はいらない。好きなものを買うといい」
〈金の亡者のラビ様がどうした!?〉
〈もう十分な金額を稼いだんだろ〉
〈ちゃんと銀行振り込みの設定したか? しないとただの貯金だぞ〉
「それなんだが、身バレするから口座登録できない。お前たちの金は私の手元には来なかった」
〈くっそwwwww〉
〈当たり前だろw〉
〈お前、おもしろすぎるだろwww〉
〈仮面の下でしゅんって顔してるのが分かる〉
〈これまでの金どうしたんだよ〉
「ダンジョン・スタンピード被害救援基金に全額寄付するように運営に指示した」
〈良い奴w〉
〈それでこそ俺たちの魔王〉
〈この調子で寄付を続けろよwww〉
馬鹿にされている気もするが、このお願いを聞いても金を投げる視聴者がいるのだから、この世の中も捨てたものではないと思う。
〈
「鴻上? Aimerの彼氏という噂の男か」
〈それは知ってるんだなw〉
「あいつが教えてくれた」
〈wwwwww〉
〈こいつ魔兎さまがいないと何もできないんじゃねーのw〉
否定はできない。
ウェルヴィがいないと戦えないのは事実だ。前線に出れば間違いなく一番最初にやられる自信がある。
「好きにすればいいだろう。Aimerが私に賛同して魔物と手を組んだのは素晴らしいことだが、それ以外はどうでもいい」
スマホが震えた。
メッセージの送り主はシオンで「どうでもいいんだ」という一言だった。
めんどくせぇぇぇぇぇぇぇ。
なんであいつのことを気遣いながら配信をしないといけないんだ。
もう面倒だからやめよ。
「時間だ。次は約束できないが、また適当に配信する。では――」
最後の挨拶もまともにせずにブツ切りした俺はパーカーを羽織ったウェルヴィと一緒に自宅へ戻り、シオンに平謝りした。
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