第16話 始めての配信

「おい、本当にこれでいいのか?」


 テーブルに設置したカメラの後ろでウェルヴィが両手で大きな丸を作った。


〈うわ、本物だ〉

〈どこから配信してるんだよ〉

〈始まってるぞ、まおー〉

〈もう同接1万人じゃん〉

〈なんであんなことしたのに垢BANされてないんだよw〉


 俺は複雑な心境だった。

 緊張とは違う。カメラ目線で話すことが恥ずかしかった。

 と言っても、仮面をしているから俺がどこを見てるか視聴者は分からないだろうけど。


 あと、ウェルヴィが声を殺しながら笑っているのが鬱陶しかった。


〈今、『始まりのダンジョン』に行ったら、会えるんじゃね?〉

〈行ってみるわ〉


「やめておけ。今は立ち入り禁止だぞ」


〈真面目w〉

〈ダンジョン管理局が怖くて、冒険者は務まらねぇんだよ〉

〈こいつ、ビビってんじゃねーの〉


「せっかく、親切心で言ってやったのに」


〈なんで配信したのか理由を話せよ〉

〈こっちだって暇じゃねんだよ、うさぎ野郎〉


 なかなか辛辣なコメントが多いな。

 ウェルヴィは「お前は人気者だぞ」と教えてくれたが、嘘をつかれたのかも。


「今日は私の目的を知ってもらうための配信だ。賛同してくれるなら金をよこせ」


〈草〉

〈金欠魔王www〉

〈直球すぎるだろw〉


「私は魔物との共存が可能であると証明するために活動を始めた」


 だんだん慣れてきたぞ。

 ボイチェンも正常に機能しているし、30分くらい適当に話して終わろう。


〈無理だろ〉

〈いや、ラビは魔兎様とよろしくやってるだろ〉

〈魔兎様だせよ〉

〈どうやって魔兎さまと仲良くなったのか教えろ〉


 視聴者たちも興味はあるようだった。

 当然、冒険者ではない人も見ているだろうし、可愛い魔物をペット感覚で飼いたいと思う女子もいるはずだ。


「まと……? あぁ、あいつならカメラ外でポテチを食い始めたぞ」


〈魔兎様、ポテチ食べるんですか!?〉

〈可愛いw〉

〈兎なのにw〉

〈何味食ってるんだよ。教えろください〉


 俺は席を立ち、ウェルヴィが持っている袋を確認する。


「今日は関西だし醤油だ。パリパリ聞こえないか?」


〈クッソwww〉

〈咀嚼音たすかる〉

〈今日はってことは、いつも食ってんのかよ〉

〈あーあ、日本からポテチが消えるな〉

〈ASMR希望〉


「そんなことはどうでもいい。とにかく、魔物との生活は楽しいし、いろいろと助かるぞ」


 このままだとポテチの話で終わってしまいそうだったので、無理矢理に軌道修正する。


「例えば、か」


 そう言われると、ウェルヴィが我が家に来てから家事云々で助かったと思ったことはない。

 あ、1つだけあった。


「ニンジンの処理に困らないことだな」


〈ファーwww〉

〈お前にんじん嫌いなのかよwww〉

〈魔王はにんじんが苦手っと〉

〈魔兎様になにさせとんねんw〉

〈受験勉強さぼって見に来てよかったわ〉


「勉強はちゃんとしろよ」


〈ニンジン食えない奴に言われたくねーよw〉

〈優しいw〉

〈人参代です。つ500円〉


 チャリンという効果音とともに合計金額の欄に500円と表示されて驚いた。

 噂の投げ銭というやつか。


「これは知っているぞ。おまるんです。さん、お金ありがとう。って言うんだろ?」


〈こんなん腹よじれるわwww〉

〈お前、絶対に仮面の下でドヤ顔キメてるだろw〉

〈魔王様さいこうかよ〉

〈こんな奴に『ガイオアース』はやられたのか〉

〈魔兎様が襲わない理由はこれか? 無害すぎるって判断?〉

〈俺も名前呼んで欲しいわ〉


 なんと、1万円の投げ銭をされて一気に合計金額が増えた。


「む、ムラチョヴォ、びっちさん? お金ありがとう」


〈噛んでんじゃねーよ。ちゃんと嫁〉


 またしても同じ人から1万円を投げられ、コメントが追えなくなっていく。


「私は貴様の嫁ではないぞ? まぁいい。えー、ムラチョヴォビッチさん、お金ありがとう。金は大切にしろよ」


〈お前、さっきと言ってること違うじゃねぇかw〉

〈お金欲しいんじゃないの!?〉

〈誤字にもツッコミを入れる魔王様すき〉


 またしても会話が脱線してしまった。

 配信者ってすごいんだな。

 いちいちコメントに反応していては話が進められん。


 Aimer〈本当に魔王種の魔物を手懐けているの?〉


 目に入ったコメントに反応してはいけないと学んだばかりだが、無視できないものだってある。


「手懐けているわけではない。協力して生きているだけだ。私たちは世界平和を目指している」


 ウェルヴィとそんな話はしたことないが、気分が高まると大きなことを口走ってしまう。配信とは恐ろしい。


 どうせウェルヴィは笑っているだろう。

 視線を向けると、彼女は温かい目で守っていた。

 さながら授業参観に来た親だ。


 俺が視線を戻すとコメント欄はすごいことになっていた。

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