第13話 ラビ
今回の俺は容赦しない。
ネットでは俺のことを『魔王』と呼ぶ輩が多いようだが、本物の魔王がいることを教えてやろう。
「ようこそ、ガイオアースの諸君。ダンジョン・スタンピードを意図的に起こした罪を償え」
誘いに乗って、のこのこと『始まりのダンジョン』の1階層に入ってきた大石率いるAランクパーティー『ガイオアース』に向かって語りかける。
前回と大きく違うのは俺も配信をしているということだ。
ウェルヴィが動画配信サイトのアカウントを作って今日が初配信。
デビューを祝ってくれる視聴者が100人も集まってくれている。
俺の発言を聞き、コメント欄は大いに荒れた。
「言い訳は不要だ、
モニター上では大石たちが話し合いながら、ダンジョンを進み始めた。
ダンジョン・スタンピードが起こった日、ウェルヴィは首謀者が大石であるという証拠を俺に見せてきた。
奴らは『赤翼のダンジョン』のボスであるガルーダを無意味に痛めつけて、地上へと続く階段へ向かわせた。
ダンジョンの入り口にある隠された装置をいじっている男も確認済みだ。
突如、渋谷の大通りに現れた魔物たちはビルを壊し、車を持ち上げ、人々に襲いかかった。
後から見た映像では俺と
ウェルヴィの指示を無視して階下に降りていれば、俺も凪姉も負傷していたに違いない。
〈いきなりなんだよ、こいつwww〉
〈ダンジョン・スタンピードが意図的とか言ってるけど。頭、大丈夫か?〉
〈最下層ってことは、今回はうさぎの進化系が出てくるのかな〉
〈リベンジマッチだ。お前らガイオアースの配信と二窓できるぞ〉
「拡散しろ、視聴者ども。そして刮目せよ。今宵、世界はひっくり返る」
〈刮目せよwww〉
〈厨二乙〉
〈こんなことしたら、ダンジョン管理局に捕まるぞw〉
〈てか、顔を見せろよ〉
「さて、ガイオアースのお出ましだ」
50階層へと繋がる階段から足音が反響している。ここには6台のカメラを設置し、どの角度からも視聴者が楽しめるようにしておいた。
兎の耳、
赤い瞳は獲物を狙う獣そのものだった。
「お前が俺たちを呼び出した野郎か」
「ダンジョン・スタンピードを人間が起こせるわけないでしょ! 言いがかりはやめなさいよ!」
「名誉毀損だ。正義の鉄槌を喰らえ!」
吠えるのは3人。残りの1人は体を震わせ、もう1人はカメラを向けていた。
「なんだこいつ。うさぎの仮面なんか被りやがって」
「え、待って。人間だよね。なんで魔物の隣に立っていられるの?」
手に持つスマホを確認すると、俺の視聴者も混乱しているコメントばかりだった。
さっきまで100人だった視聴者は8000人を超えていた。
「どちらが正義が教えてやる」
うさぎを模したフルフェイスの仮面と、うさぎの描かれた衣装で全身を隠した俺は、あらかじめ用意しておいた画像を見せつけた。
それはウェルヴィが隠し撮りしたダンジョン・スタンピードが起こる直前の証拠写真だ。
「うそ!?」
「見られてた!? 一体、だれが……」
「黙れ、お前ら!!」
大石の𠮟責に他のメンバーが口をつぐむ。
「解析してもいいぞ。これは
〈え、これ、本当なの?〉
〈だったらヤバいよ。こいつら最低じゃん〉
〈Aランクパーティーが何やってんだよ!〉
〈お前ら落ち着け。こんな胡散臭い奴の言葉を信じるな〉
視聴者数はどんどん増えていく。
「ち、ちがっ。だって、大石さんがやるって」
「魔物を利用したら、魔王を倒せるって言われたんだよ!」
数万人からのコメントに耐えられなくなったのか、責任逃れを始める『ガイオアース』一同。
彼らに冷ややかな視線を送るウェルヴィに合図すると、俺の指示通りに前に進んだ。
「俺はこいつと手を組んだ。みんな知っているだろう? 『始まりのダンジョン』の新しいボス、【
〈うをおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〉
〈こいつ、くっっそ強いぞ〉
〈エッロw〉
〈今日はこれでいいや〉
「やれ」
たった一言でウェルヴィが動き出し、いとも簡単に盾を持つ男を吹き飛ばした。
〈速すぎて見えねぇじゃねぇか〉
〈仮面の男の指示で戦ってるのか?〉
〈は? 魔物って人の言葉を理解してんの?〉
〈意味わかんね。おい誰か有識者つれてこい〉
SNSでも拡散されているのか、あっという間に視聴者は10万人を超え、外国語のコメントも増え始めた。
俺が悠長にスマホを眺めている間にもウェルヴィは一人、また一人と倒していく。
〈あのうさぎが魔王だろwww〉
〈ここまで圧倒的なら笑うしかねぇな〉
〈どうみてもこの男が魔王だろ。こいつの命令で動いてるんだぞ〉
〈『ブラックフェザー』をやったのもこいつだろ〉
「ご覧の通り、ダンジョン・スタンピードを引き起こしたのは冒険者ギルド『アイムズ』所属のAランクパーティー『ガイオアース』だ。信じてもらえたかな? この画像も動画も全世界に公開済みだ。絶対に逃がさないぞ」
ウェルヴィはカメラマンにもビンタし、向こう側の配信を強制終了させた。
必然的に俺の配信へと視聴者が流れてくる。
最後に残った大石の頭を鷲掴みにしたウェルヴィが俺の元へと戻ってきて不敵に笑った。
「自分の口で真実を伝えろ」
「…………」
「強情な奴だな。頭が潰れてもいいのか?」
「……っく」
「臆病者から卑怯者へ昇格した大石くん。魔物を利用しても俺たちには敵わないことが分かっただろ。ほら、視聴者は君の声を待っているぞ」
大石の頭にウェルヴィの指がめり込んでいく。このままだと本当に握り潰しかねない。
仕方なく放すように命じると、ウェルヴィは素直に従った。
解放された大石は地面に落ちて、頭をおさえて何度もえずいた。
〈完璧に支配してて草〉
〈魔物ってそんな風に扱えるの?〉
〈大石さん、本当のことを教えてください!〉
〈日本を代表するAランクパーティーがそんなことするわけないだろ。信じろよ〉
「お、俺は……。俺たちが、やった」
「なにを?」
「スタンピードのきっかけを作った」
「なぜ?」
「お、お前を! 俺に恥をかかせたお前を殺すためだ!」
ナイフを向けて立ち上がった大石だったが、俺を庇ったウェルヴィの長い爪とぶつかってナイフが砕け散った。
「あ、あ、あぁ」
「これが真実だ。どっちが正義かは視聴者に委ねよう」
大石たちを非難するコメントは目で追えない速度で更新される。
「ダンジョン・スタンピードは災害ではない! 魔物が自らダンジョンの外へ出るのではなく、裏で手引きしている人間が必ずいる! 一方的に魔物を嫌悪し、淘汰する時代は終わったのだ!」
泣き叫ぶ大石の声に負けないように声を張り上げる。
「人間と魔物が手を組めば、なんだってできる。良い意味でも悪い意味でも、だ!」
俺は成し遂げた。
誰もが俺の言葉を信じる影響力を手に入れたのだ。
「我が名はラビ! 一方的に魔物をいたぶる人間を狩る者だ。身に覚えのある者は震えて眠れ。我らはどこにでも現れる」
ガタガタと震える大石たちに背を向け、カメラ目線で宣言した。
「狩っていいのは、狩られる覚悟のある奴だけだ!」
俺はウェルヴィに放心状態の大石たちを転移石の上に乗せるように指示して、配信を終了させた。
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