第四章(一)

「えーっと、開通屋さん? でしたよね」

「……あってますよ。はあ、また繋げと?」


 彼女はすぐに見つかった。

 魔スコット・ガーディアン協会から少し離れた場所にある、喫茶店の窓際で優雅にお茶をしていたのだ。

 彼女はいづるたちの姿を窓越しに確認すると、ふっと視線を逸らし、明らかに大きなため息をついてるのが見てとれた。

 あからさまな態度に、肩に乗ったネオリアがむきぃと腹立てていたが、先程の失礼な言動をとったことを考えればしかたないといえよう。

 オリビアは特に気にしてないようだが。


 そうして、喫茶店内に入り冒頭に至るというワケである。

「今は休憩中なんです。後にしてもらえませんか?」

「おまっ、緊急事態なんだぞっ」

「頼むよ、開通屋くん。一般人が更に巻き込まれる可能性が高いんだ」

「はあ」

 ネオリアとオリビアの言葉に気のない返事をする開通屋に、いづるはたまらず頭を下げた。ネオリアが「おわっ」と、慌てて振り下ろされないよう必死に掴まっている。

「無理を言ってすみません。ですが、知り合いが危険に晒されてるんです。どうか力を貸してください」

 深くお辞儀をして、頭をあげないいづるにネオリアとオリビアが驚いた顔をしていたが、残念ながらその顔はいづるからは見れない。

 いづるをじっと見ていた開通屋は、ふっと息をついた。

「貴方は、何を差し出せますか?」

「え?」

「おいっ」

「開通屋くん、それは」

 ネオリアとオリビアの言葉を無視して、開通屋の少女は言葉を続ける。

「ここまでは上坂さんが、まあ、お金ですけどね。貴方は? 見たところこちらに通ずるものはなさそうですから」

 その言葉は淡々とした調子ながら、重い。

 いづるは暫く逡巡した後、ややあって言葉を返す。

「……俺、これがこのバイト初めてなんです」

 いづるの言葉に、それが? というふうに小首を傾げる開通屋をじっと見つめる。

「差し出せるものとしたら、俺が成功したらですが、報酬のお金渡します。それでも足りないなら」

 一度、言葉をきる。

「貴方の手伝い、させてください。できる限り、力になります」

「……貴方が? ただの一般人がですか」

「はい」

 それはあまりに無謀な、意味のない取引だ。役に立つかもわからない。

 ただでさえ、今回の件が成功するかもわからない。

 開通屋の少女は、サングラスで見えない目を白黒させる。

 なんて、ばかな、おろかな少年。

 けれど。

「いいでしょう、ただし、貴方だけに背負わせるのは……ねぇ、ネオリアさんにオリビアさん」

「ちっ、わぁってるよ。やってやる」

「いづるくんに、あんな風に言わせてしまったからにはね。私もやるさ」

 ネオリアとオリビアがそう言えば、開通屋の少女はゆっくりと席を立つ。

 いづるはネオリアたちの言葉に驚いているようだが、少女からしたら当たり前の返事、そうくると確信していた。

「では、急ぎましょうか。私もこの後の予定がありますしね」

 そう言って歩き出そうとする開通屋に、いづるが再び深くお辞儀をした。

 ネオリアはもう、いづるにがっしり掴まって離れない。

「ありがとうございます」

「……いいえ。はあ、貴方。ネオリアにはもったいないですねぇ」

「ああっ?!」

「かも、しれないよね」

 うんうんとオリビアが頷き、ネオリアがそれに噛み付いている。

 いづるはネオリアが開通屋の少女に飛びかからんとしてるのを必死に止めている。

 と、オリビアが開通屋の少女の横に並ぶ。

「いづるくん、変わってるだろう」

「そうですね、あんな無謀な取り引きするくらいには」

 チラリと後方のいづるたちを振り返り、また前を見て言う。

 ただの一般人だ。

 ネオリアやオリビアとは違う。

 力なんてないに等しく、自分すら守れるか危うい存在だ。

 なのに他人のために、なぜそこまでできるのか不思議でしかたがない。

 けれど。

 なにか、彼は今まで見た一般人とは違うと頭のどこかで何かが言う。

「まあ、お手並み拝見とさせていただきましょう」



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