第三章(七)
***
「なぁ、いづるのやつ、なんで来なかったのかな」
「わかんね、でも、今まで欠席なんてなかったしなぁ」
「風邪か?」
「うーん、あれかもなぁ。昨日なんかバイト始めるとか言ってたから、それでなんかあった、とか?」
帰りのHRが終わり、人がいなくなった教室で四人——宮田に伊之瀬、織田に八代は一つの机を囲い、椅子に座りながら話し合っていた。
最後の八代の言葉に、三人はなんだその話聞いてないぞと不満げな顔を向ける。
「え? いづるのやつ、バイト始めたのかよ。なんかやばいバイトとか?」
「それが今日に影響して体調不良か?! いや、昨日話してたホラーが影響してるとかか?!」
「ひぃ、絶対そうじゃ。祟りじゃ、祟りじゃ!」
「いや、まさか祟りはないだろ。んー、なんか駆除のバイトとか言ってたよーな」
八代が首をひねりながらなんとか思い出した内容を言えば、三人は駆除? と頭の上にでっかいはてなマークを浮かべる。
「なにそれ、学生でもできる仕事?」
「シロアリとかそんなのかな」
「ハクビシン? とかかも!」
「いやー、どうだろ、ただいづるのおばあさんづてらしいから」
「あぁ」
「それは」
「いづる、断れないよね」
うんうんと頷く四人。いづるが大のおばあちゃん子なのを知っているのでくくっとみんなで笑う。
と、宮田がそういえばさと言葉を続ける。
「けーちゃんに東堂先生も休みらしいけど、どうしたのかね?」
「なー、先生たち心なしか顔色悪かった気がするんだけど……あれか? 邪悪な風邪菌が流行ってるとかか?!」
「いや、祟りじゃ、祟りじゃ!」
「いや、織田お前、いい加減祟りから離れろよ」
そう言いながら四人は椅子から立ち上がる。
ガタガタという音が、やたら大きく教室内に響く。
ふと、がらりと大きな音が教室内に響いた。
「うわっ」
「びびった!」
「祟りじゃあ」
「だから離れろって……え?」
八代がそう言いながら、音のした方を振り返った時だった。
教室の入口に、人がいた。
東堂がいた。
東堂がいた、というのが正しいのか。
それは顔だけ東堂だった。
けれど下は、自分たちが昨日見た、
「ねぇ」
「言わないで」
「た、た」
「まじかよ」
一人だったら夢と思ったかもしれない。けれど、今、四人全員が同じものを見て顔色をなくしている。
「だめ、じゃないですか。かえ、らないなん、て」
それは東堂の声だ。間違いなかった。
けれど下は、どう見ても
四人が後ずさると、それが一歩、踏み出す。
「なぁ、どうする」
「そんなの」
「逃げるに」
「決まってんだろ!」
ばっと四人は反対の入口に駆け出して廊下を出て全速力でそれから離れる。
「あぁ、はしったら、あぶないでしょ、う? にげても、むだなのに」
遠く離れたはずの声が、なぜかはっきりと聞こえて四人は顔を青ざめさせる。
「なんだよあれ、なんだよあれ!」
「顔が東堂で、下がけーちゃんじゃなかった?! あの胸ぽっけのワンコのボールペンそうじゃん! 絶対そうじゃん!」
「やっぱり怪談話なんかしたから……祟り、なのかぁぁ!」
「やめろ、まじ、それしか浮かばねぇ! なんなんだよいったい!」
四人はもつれそうになる足を必死に動かして廊下をひた走りながら、ふと、この状況がさらにおかしいことに気付いて互いに顔を見やる。
「ちょっと」
「言わないで」
「もう、祟りどころじゃないじゃん」
「いや、言うけど」
「廊下、長くね?」と、八代が言えば三人から「「「うわぁぁ! いったぁぁ!」」」と悲鳴が上がった。
「否定してたかったのに!」
「や~し~ろ~」
「もうこれ怪談レベルのこと起こってるじゃん! 祟りか?! はっ、俺達って霊感とか強いとか?!」
「いや、いやま、あるのか?」
なんてわざとふざけて明るく呑気に言ってみても、廊下はいつまでも長く続いたまま。体力だけが消費されていく。四人の息があがり始めて、宮田が「なぁ」と、声をかける。
「これ、どっか部屋に入って隠れたら詰むかな?」
「詰むな」
「終わる」
「つかまって終わる」
「「「「だよなー」」」」
と、四人で顔を見合わせて疲労感あらわにした顔で弱く笑う。
止まれない。
止まれば、あれがくる。
なら、どうしたらいい?
「窓さ、開けっ、れない?」
「やっ、これ、止まる気?!」
「止まって開け……るか、どこ、かに隠れるか、走り続けっるか!」
「走り続けるのも限界ある、だろっ」
はあはあと息が切れだす四人は徐々に走る速度が落ちていく。
「なぁ」
「気持ちわかる、わかるけど」
「おすすめしない、振り返るのは」
「けど、気になる! あぁぁ! くそっ。今日はなんか厄日か?!」
振り返り、確かめたい。
しかし、それもまたフラグだと、四人は直感している。
「もう体力げん、かいっ」
「こうなった、ら」
「ま、窓か、教室、か!」
「窓で、いくかっ?!」
八代の言葉に、三人は頷くも外へ視線を向けて絶句する。
もう、汗だくだった。止まりたかった。
どれだけ走っても途切れない廊下。
けれど、視線を向けた先の外は、空の色が異様に赤い。
それはもう、日常から離れた場所だと告げているようだった。
「やべぇ」
「外も、やばっ」
「うそだ、これ。たた、りのいろじゃ、ん」
「あぁぁ! もう、これじゃあ教室しかないじゃんかよっ」
四人は顔を見合い、頷く。
そして意を決して、すぐ近くの教室の入口に手をかけ、全力で引いた。
「やっと、はいって、きた」
四人の悲鳴は誰にも届くことはなかった。
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