第三章(五)


 そこにはいつの間にいたのだろう、一人の青年が立っていた。


「えーっと」

「うげぇ」

「やっぱり出たか~」

 三者三様の反応に、その声の人物――銀色の短髪の青年はピクリと片方の眉を上げる。青色の瞳を眼光鋭くしてこちらを見てくるのだから、決していい方の出会いではないなと、いづるは心の中でため息ついた。

「いやな声を出されますね、しかし歓迎してないのはこちらもですよ。貴方たちが来ると毎回ろくなことが起こりませんからね」

 黒と銀を基調としたまるで軍服のような格好の青年は、大きく肩をすくめると、やっといづるに気付いたというようにこちらへ視線を向けてきた。

「おや、貴方は? 見たところこちらの方ではなさそうだ」

「えっと、昨日からネオリアとパートナーを「なんですって?」」

 言い終わらないうちに、言葉が重ねられていづるは閉口する。

 青年はというと、信じられないものを見るように大きく瞳を開いていづるを見ると、それからいづるの肩に乗るネオリアを見た。

 そして、ややあって

「貴方、今すぐ考え直したほうが身のためだと。それと組むなど自殺行為ですよ」

「おいっ、てめ、どういう意味だ!」

「はは、いいね、そういう反応になるよねぇ」

 ぎゃいぎゃいと三人が言い合うのをいづるはただ遠い目をして見つめた。

 あの開通屋という少女に、そしてこの見知らぬ青年にまで言われるとは。

 ネオリアは一体、今まで何をやらかしてきたのだろうか。いや、あまり知りたくはない。

 きっとあの青年が言うように、ろくでもないのだろう。

 まぁ、それにはオリビアも入ってるようだが。

 けれど――と、いづるは思い出す。


(なんだかんだ、助けてはくれた……むしろ、なんで俺がパートナーをやってるんだ?)


 ただの駆除のバイトのはずが、いづるにはまったく無縁の――怪事件とでもいえばいいのか――の仕事だった。

 ネオリアたちのような力を持たない自分がどうして任せられているのだろうか。

 それはとても、おかしな話だ。

 魔法や魔術、精霊など、まったく魔の字も最近まで信じてなかった、ただの学生の自分がなぜ。

 ふっと浮かんだ疑問は、いづるを思考の海へ沈める。

 そのいづるの様子を青年は何か考えるようにちらりと一瞥送り、再びネオリアたちに言い放つ。

「せめて訪れるなら、普通に入ってきてくれませんか? この森の被害どれだけだと思っているんです。まったく、これだから長老方にお荷物と言われるんですよ」

「誰が荷物だ、ごらぁ!」

 ぴょんっといづるの肩から降りて、地面に着地する。たしたしと足を踏み鳴らすも、全然怒りの強さは表せていない。

 オリビアはといえば、ふっと悲しげな表情を浮かべ

「レディに向かって失礼だね、君――インフェイ。うん、君って女性にもてないだろう」

「少なくとも、貴方のような女性にはモテたくありませんね。あぁ、ネオリアは荷物じゃなくて上坂殿のペットでしたか?」

 インフェイ――と呼ばれた青年が、ふんっと鼻で笑うとネオリアがますます地団太を踏んだ。

「おまぇええ!」

 全身の毛を逆立て、ネオリアが威嚇するのをやっと思考の海から戻ってきたいづるが慌てて止める。

「ちょっ、やめろネオリア! すみません、失礼なことを」

「……いえ、どうせあなたは‘巻き込まれただけ’でしょうから、お気にせず。この連中に関わることはオススメしませんよ」

「おまっ、ほんっといつもむかつく!」

「ふぅ、インフェイは反抗期かなぁ。数年前はまだ、かわいげのある――」

「? 数年前?」

 そんな前から知り合いなのかと驚いていると、インフェイがぎっとオリビアを睨んだ。

「やめてもらえますか、過去を持ち出すの。……しかたない、ここで貴方方と話していると私までろくな目に合わないでしょうから、とりあえず協会へ」

 ふっと息をつき、インフェイが街の方だろう方向へ足を向けると、それにネオリアとオリビアがニヤッと顔を見合わせているのが見えた。

 いづるは、なんとなく何を言うのも疲れてとりあえずそのあとをついって行った。


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