第三章(四)


「ちょ、なんとかしてくださいオリビアさん! ネオリア……も!」

「おいっ、なんで俺は次いでみたいに言われるんだ。ってか、オリビアはあれで失神してるぞ」

「……」

 見れば、笑顔のまま落ちているオリビアがいた。

「ちょっとぉぉお! あんた、あれだけ自分が責任もって連れていくとか何とか言ってそのざまなんなんです?! いや、つか落ちてる時間ながっ!」

「まー、それだけなんとか考える時間あるし、いいんじゃね?」

「……」

「笑顔で失神してる人に引っ付いてるだけの獣じゃ、もう地面叩きつけられる結末しか浮かばねぇわ! どうするんだよこれ! 詰んだわこれ!」

「お前、すげぇ喋るじゃん」

「……」

「いい加減、失神から覚めてくれ! ネオリア! 空パターンっとかいってたろ、そん時はどうしてんだっ」

「いや、そこは冷静に聞いてたんだな。驚きなんだが」

「いいから、質問に答えてくれ!」

 と、オリビアが薄っすら目を開き

「……ふっ、はっ、まだ空か。すまない、またちょっと逝ってる」

 また失神した。

「起きた意味なさすぎるだろうがぁぁ!」

 すでに地面が見え始めている、周りは鬱蒼とした木々が茂っているのが見えた。

 ぶつかる、そう思った。

「お前、突っ込み切れてるなぁ」

 どこか感心したようにつぶやくネオリアだったが「しかたねぇ、いっちょやるか」と、ぴょんっといづるの肩から大きく飛んだ。

 空中に。

 そしておもむろに、短い手をぶんぶんと回し

「わが手に宿りて……あー、もう以下略! なんちゃってダークフィスト!」

 ネオリアがそう叫んだ瞬間、魔法陣が拳の先に広がり、その魔法陣を通った拳に黒と紫が混じった炎が宿る。

 それは躊躇うことなく、下に向かって放たれた。


 どぉぉぉん!!!


 それは、なんちゃってで済ませれるものなのか。

 いづるは下を見たまま、目を点にした。

 砂埃に衝撃波がすごい。

 ぶわりと体が浮かび、木々の葉にぶつかるもそう痛みはなかった。

「……たすかった、のか」

「ふんっ、こんなもんだ。感謝しろよ」

 すたっと、地面に降り立って偉そうにしているネオリア。そういえばオリビアはと見回せば、木々の合間に引っ掛かりながら「うん、やっぱり下に限る」とあちこち葉っぱをつけて笑っている。どうやら起きたらしい。

 いづるはそれを半目で見るも、すぐさま下へ降りる。

 幸い、そう高い位置ではなかったため、難なく降りることができた。オリビアはあの高さも駄目なようだが、失神までには至らないようで、ゆっくりとまるであの黒光りするGを彷彿とさせる動きで降りてきた。

「ふう、やはりこのパターンは慣れないね。開通屋には今度、一言言っておかないと」

「……いや、さっきの何も言わなきゃこうならなかったんじゃ、ってか、今までよく無事でしたね」

「オリビアは変に運が強いからな、ま、そんなことより早く街に行こうぜ」

 また、再びいづるの肩に飛び乗ってきたネオリアに何か言おうとしたがあきらめ、オリビアを振り返る。

「こっちに行けばいいんですか?」

「そうだって、あっ」

「あぁ、そう……あっ」

 あ、このパターン、つい数時間前にもあったぞといづるは嫌な予感を覚える。

 ネオリアとオリビアが前方を見たまま動いていなのに、いやいやながら振り返れば

「……今度は俺が失神しても?」

「「だめだろ(ね)」」


 そこには、遠くから無数の狼のような獣が低く唸ってこちらを睨みつけていた。

 即全速力ダッシュである。


「なんなんですか入口って! こんなに物騒なとこに、本当に街はあるんですか?!」

「ある、けど、そう簡単に入れねぇ」

「あれは序の口だよ、いづるくん」

 はっはっはっと笑うオリビアに少し、イラっとくる。

 空からのスカイダイビングに続き、地上でフルマラソンとか聞いてない。

 すると、オリビアがすっと後方へ手のひらを獣たちへ向け

「雷光よきたれ――ライトニングフロウ」

 手のひらから大きな魔法陣が生まれ、無数の青紫の雷が獣にものすごい速さで流れるように向かっていく。それは雷しては柔らかい、しなやかな動きだ。

 まるで生きてるかのようだといづるは目を丸くする。

 きゃんっと高い悲鳴を上げて獣たちが倒れていくのに、ゆるゆると足を止める。

 どうやら失神しているようだった。白目をむいている。

「気絶、させたんですか?」

「まぁ、こいつらはちょっとした番人なだけだからな」

 そう言いながら、またも肩に乗るネオリアに、もはや乗るななどいうのも面倒だった。オリビアが獣たちをちょいちょい手でつつきながら説明をする。

「彼らはね、町の第一の防衛でもあるんだ」

「へぇ」

 それに襲われるってどうなんだと思いながら、いづるは危機が去ってほっと息をついた。第一ねぇと呟いて、はたりと動きを止める。

「……まさか、これからほかにも?」

「あるぞ」

「あるね」

「いやいやいや! なんでそんな悠長なんです?! 普通に街へ入れないんですか!」

 いづるの叫びはもっともである。ネオリアはその言葉にてへっと舌を出し

「さっき、技で地面すげぇ抉ったから、警戒されたかなぁーなんっつて! えへへ」

「はっはっはっ、そうだねぇ。見事にねぇ」

「笑いごとかぁ!」


「そう、笑い事じゃないですよ、ネオリアにオリビア」


 そこに、低い男性の声が響き渡った。


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