第三章(一)
いづるが意識を失って1時間。
ネオリアはイジイジと体育座り、不貞腐れていた。理由は簡単、遥人とオリビアにいじり……説教くらったからである。
あの後、遥人が送ってきた開通屋に路を開けてもらい、彼の待つ家へ帰り着いたものの。
ネオリアを待っていたのは笑顔で怒る遥人だった(何故かオリビアもあっち側にいるのが解せないネオリアである)。
散々怒られて耳を垂れしょげ、いじけ不満顔なネオリア。
その様子に遥人とオリビアはやれやれと言わんばかりに肩をすくめると
「やっちゃったね」
「やっちゃったね」
「ほんと、やっちゃったね」
「ほんとほんと、やっちゃったね」
ピンポイントで痛いところをついてくる。
そして更に言い募らせ
「「や「うるせぇ! 結界張り忘れくらいあんだろ! 仕方ねぇじゃん! だってコイツはっ」」」
「誰だうるさいっ! はっ、ハンバーグが消えたぁ。夢かよっ、くそっ」
あまりの煩さに、いづるが鬼の形相でソファから起き上がった。しかし、後半、夢で見た内容で悔しがっているだけである。
ぽかんと口開けて見上げているネオリアに気づいたいづるは、ん?と怪訝な顔をした。
ネオリアの目が少し赤いからである。
「……ない「ないてねぇわ! ちょっと疲れ目なだけだわ!」……へー」
瞬時に否定するほど怪しいのだが、フーッと殺気立つネオリアからやれやれとばかりに視線をずらして辺りを見回す。
と、すぐ側に遥人、オリビアがいるのに気づいて慌ててソファから身を乗り出し
「あ、すみません。なんか寝て? ました? 俺……」
あれ? いつ寝たっけ。いや、何をしていた? ここ、遥人さんちだよな。とあやふな記憶を掘り起こしてはっとネオリアを見る。
「学校は、東堂先生は」
「やっとそこかよ、学校は元に戻った。東堂? 先生? ってやつは」
ネオリアの言葉に続いてオリビアが答える。
「残念だけど、まだあれの中だ。あの門でできたのは‘捕らえる’だけだったからね。そう、やつを捕らえるだけだ」
そう言いながら、神妙な顔をして腕を組むオリビアと困った顔の遥人。なにやらとてつもなく芳しくない、胸騒ぎしかしない。
いづるは、さっき見たハンバーグの夢が恋しくなった。
「東堂? 先生という方は現在、行方不明で騒ぎになってるよ」
遥人がごめんぬと謝ってきたが、それにネオリアは鼻息荒くぷりぷりと怒りだす。
「ふんっ、あれでも捕らえたからマシなんだぞ。あのまま消えられて喰われたら行方不明どころじゃないからな」
確かにねと、オリビアもネオリアに同意する。
「まぁ、そうだねぇ。あれが最善の一つだったわけだしね」
その言葉を放ったオリビアに、いづるは縋るように目を向けた。
「……東堂先生は、助かりますよね?」
少しばかり顔色を悪くするいづるにネオリアは何言ってんだとばかりに半目を向けてきた。
「そのために‘捕らえた’んだぞ、当たり前だろ」
ふんっと、そう言い放つネオリアは小生意気だが、その言葉にいづるはほっと安堵する。
「まあ、ネオリアはかっかするのやめなさい。いづるくんはいきなりこんなことになって、心配なんだ」
わかるだろと、遥人が言えばネオリアは唸り、黙った。一応、分かったらしい。
そんなネオリアの様子にオリビアは面白いのを見たとばかりにやにやしていて、先程の神妙さはどこへやらである。
ほんとに、大丈夫か。これ。
魔スコット・ガーディアン。
など、いづるが不安になるのは仕方ない。
「あれ、そういえばいつ、遥人さんちに来て」
「……………さっき」
「ぶっ」
「くふっ」
いづるのもっともな疑問に、少し間を置き、ネオリアがちっちゃく返事すれば、遥人とオリビアが何か堪えるように顔を背けた。
いづるが訝しげな顔をすればネオリアが慌てて懐を漁り、マフィンを一つぐいっと差し出してきた。
「? なんだよ、マフィン?」
「や、やる、から、許せ」
「ぶふっ、ネオリア」
「く、くく、ま、マフィンで?」
遥人とオリビアが肩を震わす意味がわからず、いづるがますます顔を訝しめると、更にネオリアがマフィンを一つ追加して差し出してきた。
いったい、いくつ入ってんだと思うも、クマフィンから漂う甘い香りにやられすっと受け取るいづるは、食い意地がはっているとしかいいようがない。
「まあ、もらえるならもらうけど」
「よし!」
「ふ、もうだめだ、い、いづるくん受け取るなんて」
「くく、やっぱりパートナーだけ、あるよっ」
満足げな顔のネオリアは気になったが、とりあえずマフィンを齧る。
(まあ、よく分からないが……いいか)
なんて、いづるの頭の中から疑問は、一時は消えたのだった。
「うまっ」
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