第二章(幕間)


「さてさて、どうしたものかな」

 暗闇の中を歩く長いローブを着た青年はうたうように呟いた。フードから見える顔は色白い。病気的な白さにも見える。

「ああ、いたいた」

 コツりと、ブーツの音を鳴らし立ち止まる。

「また、派手にやられたものだなぁ」

 青年が見上げる先、そこには無数の顔が苦しげに手に縛られ、なお焼かれうめき声をあげていた。

「まったく、せっかく揺蕩うだけだったお前に力授けてもこれじゃあなんだな。あまりにもお粗末じゃないか」

 ああ、困ったなぁと空間を見上げて、にやりと笑う姿はまるで困ってるようには見えない。それどころか、今の状況を楽しんでるように見えた。

 そう、楽しいのだ彼は。

 フードをとり、白髪の波打つ髪をかきあげる。

「おま、えはっ、何しにきた」

「へぇ、少しは言葉が滑らかになってきたじゃないか。いいね、しかしなんともみっともない姿だけど」

「っ、うるさいうるさいうるさい!」

 手にとらえられたそれは目はなくともぎろりと睨みつけたようだった。ぽっかり顔に空いた穴が黒く渦巻く、そこからいっせいに地鳴りのような声をさせ喚きだす。

 無数に響き渡る声に青年は「んー、うるさいなぁ」と呟き

「ぼくにそんな、態度をとっていいのかい? せっかく捕らえれたお前を助けに来たというのに」

「……なに?」

「そう警戒しなくていいさ、大体はこうなることは分かっていた。まだ、お前にはアイツらに対抗する力が足りていなかった。不十分な存在だっただけ」

「おまえっ、ふざ、ふざける、な、わたしは、わたしは! やっとちからをすがたをっ」

「はいはい、そうかっかしない。今のままなら、だ。これから更に奴らより力をつければいいだけの話」

 「ただそれには、時間と苦痛を伴うがなぁ」と言って紫水色の目を細めてニンマリ笑うと、すっと、片手を空間に向けた。

「どうする、このままここで焼かれているか、更にぼくに従いより変わるか」

「……これ以上に、変われるのか」

「そうだなぁ、今よりはまあ、いいね。とりこんできた人間を喰らい姿を得て、形をまずは不完全から完全へ」

 と、そこで言葉を一度切り、口をこれでもかと歪ませ笑った。

「そうだな、あの獣、お前を縛ったあのガキを喰らえるくらいにはなるさ」


 ヤツの力もろともねぇ。


 その言葉に声が反応する同時に、空間は瞬く間に紫炎に染まった。



 

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