第8話・いい思い出を作る為にゲーセンへ

 どれから数日。結局一葉は演劇部の方へと入部し、会えない時間が増えた。でも同じクラスにいることと、一葉がクラスに慣れ始めたころ、席替えもあって隣同士になった。ってなんて都合のいい席替えなの!? 小説でもゲームでもこんなに都合のいいことなんかないよ!? こんなのまるで誰かが仕組んだようなものだ。


 ――いや、実際本当に仕組まれていたんだけどね。


 まあ正直会えない時間が増えてフォローすることも難しくなってきてるから助かるには助かってるけど。


「二葉、部活は大丈夫そう?」


「うん! まあ一葉を保ちながら演技ってかなり難しいけど、楽しく演技してるよ!」


 そしてある日の放課後二人で帰宅していた。実は私の部は自由参加のサークル型。だから二葉たちの部活休止日は一緒に帰るようにしているんだ。


「そういえば、優ちゃんってゲーム好きなんだよね?」


「うん! 色々やってるしゲーセンもよく通ってるよ。そうだ! この後暇なら一緒にゲーセン行こう!」


 今はまだ二葉と一葉の人格は安定しているみたいだけど、いずれ一人になってしまうほど不安定になる。でも私は二葉たちにはきつい話ではあるけど、どっちも消したくない。なら、一葉だけじゃなくて二葉も楽しめなくてはならない。だから私は彼女の手を取ってゲーセンに向かって走る。


 ゲームはいろんな思い出を作れるものばかりだ。私は世代じゃないけど、昔のファムコンを遊んでいた人も今では大人でその時の記憶はいい思い出だとよく聞いている。ならばゲーセンだって同じだ。


 でもだからと言って記憶に残ればいいというものではなくて楽しくプレイできてないと意味がない。そこでゲーセンに入ってまずはゾンビを倒すガンシューティングゲームを遊ぶことにした。

 

「鹿野さん、こういうのが好きなのね」


「うん射的とか好きだしって、あれ一葉? いつの間に入れ替わったの?」


「さっきよ。私なんかより一葉がって言って無理やりね」


「あはは……」


 ゲーム台に立つと二葉の口調が変わっていて、彼女はため息をつきながら事情を説明してくれた。二葉が学校で演じている一葉とは違う冷たい雰囲気が強くて、説明前に人格が一葉に変わったことをすぐに悟った。


 にしてもせっかくなら二葉にもやってほしいんだけどな。と思っていたらそれを読み取ったように一葉がこう話してきた。


「二葉はホラー系が凄く苦手なの。私は平気だけどね」


「じゃあ別のゲームにする?」


「大丈夫よ。どうせ私たちのためにって思ってここに連れてきたんでしょう? なら楽しむべきじゃない?」


「意外と積極的だね……?」


 流石一葉だ。私がゲーセンに二葉たちを連れてきた理由をよくわかってる。とはいえだ。一葉がこんなにも積極的なのはいいことではあるんだけど、二葉がホラーを怖がるということは一葉も潜在的には拒んでいると思う。私はまだ多重人格のことをよく知らないけど、主人格が耐え切れない感情や表に出さない気持ちをだすのが第2の人格だと思う。


 もし私の考えているそれが正しければ、やはりこのゲームはやるべきじゃあない気がする。でも本人は無表情だけど割とやる気なんだよなあ。


 そういえば、二葉が私のSNSのアイコンを見て直ぐにゲームのキャラだってわかってたくらいだし、ゲームはするのかな。だとしたらやる気出しているのはなんとなく納得できる。

 

「……ダメね。このゲームは私には合わないみたい」


 二人でプレイを始めて早々に一葉はゲームオーバーになっていた。


 いや、ええ? まだ最初の最初だから負けるなんて思ってなかったよ私! あんなに自信満々に楽しむべきじゃない? とか言っておいてぜんっぜん下手だこの人!

 挙句には哀愁漂わせて諦めてるんだけど!?


 2人プレイだから敵数も多いのに! 仕方ない、こうなったら……。

 

 私は隙を見計らってポケットの中にある百円を2Pに入れて一葉の方をコンティニューした。でも一葉はあてにならないからコンティニューした意味は普通に考えればない。じゃあどうして2Pをコンティニューしたのかと言えば。


「2つ同時に……!?」


「実際はタブーだけど、こっちの方がやりやすいんだよね!」


 2Pをコンテニューしたのは2Pの銃を使い2丁拳銃ならぬ2丁銃コントローラでプレイするため。


 本来2人用だからこの使い方は想定されていないが、割とガンシューティング常連には知れたやり方だ。


「やっぱ2Pだと敵数が多い……」


「鹿野さん頑張って」


 他人事のように応援するなあもう! 一葉の分までやってるから大変なのにぃ!


 なんて心の叫びは出さないし、私が勝手に2Pをコンティニューしたから言いたくても言えないけど! でもどれだけひぃひぃ言ってもゲームは手を抜いてくれなくて。


「ぬああああああああああああああ! 負けたぁぁぁぁぁ!」


「し、鹿野さん、声が大きい……」


 案の定敵数に体が追い付かずに負けた。正直悔しいけど一葉の意外なところを見られたし、二葉がホラー苦手という情報も手に入れられたからいいか。とはいえ今回私が楽しんじゃったし一葉たちが楽しんでなければ意味はないんだけどね。


「よし、二葉にも楽しんでもらいたいし……あ! 二人は何か欲しいのある? こう見えて私UFOキャッチャーも得意なんだよ!」


 シューティングゲーム以外の協力プレイはそんなにない。なら対決とも思ったけど、先客がいてプレイはできそうもなかった。ならばとシューティングゲームの台から離れてUFOキャッチャーが並んでいる場所を歩く。


 台数が多いだけあって景品の種類はかなりの数だ。だから一葉たちに欲しいものがあるかと尋ねてみると、静かに指を指していた。その先にあったのは三日月のように丸まった小さなイルカのストラップだ。


「イルカ、好きなんだ?」


「ええ、意外……だったかしら?」


「ううん、そんなことないよ! 可愛いは正義だし!」


 まあ実はクールな一葉が可愛いものを好きなのは意外だったけど、人の感性は様々だ。たいして驚くことじゃあない。第一私も可愛いものも好きだけど、かっこいいものも好きでよく意外だと言われてたし。


「よし、せっかくだしおそろにしよう! えーと一葉と二葉と、それから私だから3つかな」


「い、いいわよ。そんなに気を使わなくて」


「え、私とお揃いは嫌……だったりする?」


「そういうことでは……ないけれど」


 お揃いにしようと提案したら急に遠慮し始める一葉。まあUFOキャッチャーの景品をお揃いにするとなると、割とお金が掛かるし直ぐに取れるという保証もないから心配してのことだろう。でも私はあいにくUFOキャッチャーが大得意だからそこら辺の心配は無用だったりする。


 でも心配ではなくて本当の意味でお揃いが嫌なら話は別だ。だからあえて嫌なのか聞いたら、なぜか顔を赤くしそっぽを向いてからお揃いでも構わない旨を話してくれた。多分お揃いなんて初めてのことで恥ずかしいんだろう。結構クールで硬い感じなのに可愛らしいところもあるんだなぁ。


「まあお揃いでもいいなら私に任せて! さっきも言ったけどこういうの結構得意だし!」


 一葉の可愛らしい一面に少し顔がにやけたけど、それがバレないようにどや顔で隠して有言実行と言わんばかり数百円でしっかり3つ確保した。


「はい、一葉と二葉の分!」


「あ、ありがとう……大切にするわ」


 イルカのストラップを渡すと大切そうに抱きしめ、優しい笑みを浮かべて礼を言ってきた。別に大したことはしてないけど喜んでもらえて何よりだ。


「そろそろ時間も時間だし、帰ろうか」


「……ええ」


「そうえいえばあれ以来二葉出てこなかったけど、大丈夫?」


「……それがね――」


 時計を見ればもう17時を回っていた。あんまり学生服で外を歩いていると補導されそうな時間になってきたからと、帰ろうとしたところで私は二葉のことが気になって聞いてみた。すると帰ってきた返事は思いもよらないものだった。


「――起きているはずなのに、二葉の声がなにも聞こえないの」

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