第6話・本当は
翌日の放課後。部活動のことを教えていないから彼女たちの様子をみつつ2人――正確には強引に表に出された一葉と私だけ――で様々な部を案内していた。学校での楽しい思い出と言えば大体部活と大きな行事ぐらいだし。とはいえ一之瀬は女子だし
「まずはここ、美術部! まあよく聞く部だろうから詳しい説明は省くけど、この部では色んなコンテストに応募して賞を取ることと、学校祭の飾り制作を主に任されてるね」
「学校祭で部活動の出し物あるのね」
「ないところもあるよ。例えば私がいる情報処理部は無いね」
他にも茶道や科学部も出し物はない。でもだからといって何もしないわけはなくて協力を強いられるんだけどね。まあそこまで忙しくはないから楽ではあるんだけど。
「そう。でも出し物をやりたくはないとは一言も言ってないわ」
「そ、そうだよね」
二重人格だし、基本的に二葉が活動するから色々考慮したんだけどすぱっと鋭いナイフで切るように突き放された。やっぱり関わらないでって言ってきたくらいだし、一葉は私とはあまり一緒には居たくないんだろう。すごくそっけない感じもするし。
でも本当に関わりたくないなら今こうして部活動の紹介についてきてくれてないだろう。
とはいえ棘があるというか、話しにくくて気まずい空気が私たちの周りを漂っていて凄く息が苦しい。
次第に自覚できるほど声が張れなくなってきて、凄く気分が乗らなくなってきた。
でも諦めたらだめだ。一葉にいい思い出を作って、消えないようにするって二葉と約束したもの。ここで挫けていたら絶対後悔する。だから私は元気を振り絞って彼女の手を取って案内を続けた。
「最後に演劇部! ただこっちは二葉に合う気がするんだよねぇ……」
最後にやってきたのは外にある部室棟の演劇部。今日はお休みみたいで誰もいない。
「二葉は演技好きだものね」
「うん。でも一葉はどちらかというと文芸部系とか家庭科系とか」
「何を知った口を、いや、でもそうね。私本読むの好きだし、手先は器用な方だから間違いではないわ」
「おお、何のヒントもなしに合う部活を当てた私は天才!」
「馬鹿じゃないの? まあそれは置いといて……色々と考えたら鹿野さんと行動するべきかもしれないわね」
さらっと馬鹿と言われたんだけど!? 本当に辛辣だな一葉は!?
とはいえ秘密を知っているからこそ、私としても彼女と一緒にいる方がケアできる。万が一にも教室で起きたように二葉がテンパってしまうと容易に一葉という人物像が崩れてしまうのだから。それに私としては情報処理部に来てもらった方が、私がやってるゲームの話できるし嬉しいんだけどな。
だから一葉のその言葉に私は期待を寄せて。
「じゃ、じゃあ情報処理部に!?」
「いえ、演劇部に」
ここまで期待させておいて!? はっ! まさか私に二葉同様に演技をやれと言う暗示!?
いや、一葉の顔を見ればそんな事考えてないってわかる。うん。これは紛れもなく私と会わないような部を選んだだけだ。
とはいえ、演劇部は人との関わりを大事にするから合ってはいないと思うのだけれど。
「いや演劇かーい! めっちゃ期待しちゃったよ私! 今の話の流れ的に私がいる部に来る感じだったよね!? 宇宙猫になるよ私! いや正直もう頭の中宇宙猫になりそうになってるけど!」
「……私としてはあなたと一緒に行動なんて嫌なのよ。言ったでしょう関わらないでって……確かに二葉が言う通り鹿野さんは私の体質に対して驚かなかったけど、でもまだ私は信用した訳じゃあない……人は誰しも裏を持つもの。自分と違うからって笑ったり陰口にしたりするもの……簡単に信じられるはずないじゃない!」
「わ、私はそんなことは――」
せっかく和ませようとボケてみても、真剣な表情で毒を吐く彼女。でも一葉を、二葉を笑うなんて私はしない。だって協力するって心から決めたから。なのに、そんな事しないって言いかけて言葉が喉に引っかかった。
笑うことも陰口もしない。してないって胸を張って言えるのに引っかかったのは、心のどこかで彼女を特殊な人だと思っているからかもしれない。それってつまりは差別をしているようなものだし、笑ったり陰口をしてないとはいえそう考えると2人が苦しんだ過去と同じことを私はしていることになる。それにまだ知り合って日も浅くお互い知らないことだらけ。
だから確実にしないとも言いきれなくて自然と言葉が止まったんだ。
「そんなことは、で黙るということは貴女もなのね……やっぱり貴女は私と関わるべきではないわ」
「…………」
何も、言い返せなかった。そんなことないって言うだけなのに。まるで私の中でその単語が消えてしまったかのように、言葉にできなかった。
「……二葉があれほど言うくらいだから少しは期待したのに残念ね。もう部活の紹介も終わったわけだし。明日からは本当に関わらないで。それじゃあ」
「あ……」
やらかした。
部室棟から離れて行く一葉の背中をみて、その言葉だけが頭の中に残って他は真っ白に染まった。
手を取るべきだったと後悔した。そんなことないって言えなかった事に後悔した。
――彼女の秘密を知ってしまったことに後悔した。
いや、ちがう。後悔なんて覚悟の上だ。じゃなければ私は助けたいとも思わなかったはずだ。なら私がとるべき行動は決まっている。そんなことないって言えなかったなら言えばいい。手を取れないなら取るしかない!
それに何もしないで後悔して終わるよりも、行動して後悔する方がいいに決まってる!
「待って一葉!」
「……何」
追いかけて手を掴むと、振り返った一葉の鋭い目線が私の顔を刺してくる。凄く冷たくて痛い視線。それでも怯んではいられない。
「私は……私は! ……一葉たちを笑うことなんてできないよ」
「ならなんでさっき言葉に詰まってたのかしら」
「それは……」
「ほら何も言えな――」
「――確かに私は一葉を……一葉たちを特殊な人だと思ってる。それが一葉にとってどんなに辛いものなのかも今話していてわかった。でも私たちはお互いのことをよく知らないから、断言できなかったの」
一瞬本当のことを言うのに恐怖を感じたけど、この際ならばと私が思っていたことを洗いざらい話した。すると俄然冷たい表情だけど、わずかに驚いているような雰囲気が感じ取れた。きっと彼女にとって自分のことをわかってくれるのは珍しいことなんだろう。
しかしまだ心のガードは固いみたいで、信用されていないのかこう言ってきた。
「……じゃあなんでできないって言いきれたの? どうせ私の機嫌を取ろうとしているのだろうけど」
「ううん。違うよ」
「ならどうして?」
「一葉に消えてほしくないから、いい思い出を作って生きる楽しさを知ってほしいんだ。その一環で部活をと思ってたんだけどね……」
本来の目的は違うけれど、でも好きな部活を選び青春を謳歌するのもまたいい思い出になる。だから最悪私と同じ部でなくともかまいはしない。
ただ私は一葉を消したくないだけなんだから。
「……はぁ……私、鹿野さんのこと勘違いしてたけど、謝る前に1ついいかしら?」
「うん」
溜息をついた一葉は私の手を振り払って振り向くと、腕を組み二葉が教えてくれなかった事実を静かに私に突き付けてきた。
「私のこれは最終的にどちらかが消える。私が消えなかったら、二葉が消えるわよ? それでもいいのかしら?」
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