第4話
「...歩きづらい!」
一歩進む度に肩と腕が当たる。白鳥はその感触すら楽しんでいるのか、ずっと笑っている。
あたしが人目が無ければと許可したから言いづらいけど流石に限度がある。
「そうかい?」
「暑苦しいし歩きづらいし誰も得しないだろ!」
「そんな事ないよ、私は依那ちゃんと居るだけで楽しいからね。」
「誰にでも言ってそうだよな、それ。」
直接見た事は無いけど簡単に想像できる。白鳥にはファンがたくさんいるからな。多分、学校の女子生徒の大半が似たような口説き文句を言われてるだろう。あたしもその中の1人ってだけだ。
...無性にイラつく。このイラつきの正体が分からないのが更にイラつく。
「その安い口説き文句、あたしには効かないからな?」
「それは残念だ。本当の事なんだけどね。」
「はいはい。」
雑に流しても白鳥の笑顔は崩れない。
その余裕そうな態度が人気の秘訣だろうか。あたしとしては一方的に揺さぶられて気に食わない。その演技じみた仕草も、本音を見せないような態度も...
「白鳥さ、あたしの前で格好付けるのやめろよ。」
ずっと絡まれて面倒だとは思ってはいたけど嫌だと思った事は無い。あたしはただ、普通に友達になりたいんだよ。
少なくとも、普通の友達同士なら変な口説き文句なんて使わないだろ。
「うーん...難しいね。」
「難しくはねぇだろ...」
「だって、好きな子の前で格好良く見せたいのは普通の事だろ?」
「だからそういうのをやめろって...」
言葉が詰まってしまう。
いつも笑顔が張り付いているんじゃないかってくらい変わらない表情が今は真剣そのものだった。
いや、演技の可能性もあるだろ。白鳥は多分そういう事をする奴だ。
「私は本気だよ。」
あたしの思考を先回りするかのように言葉を重ねてくる。
白鳥は元々考えてる事が読めない奴だった。今はいつも以上に分からない。
全然頭が回らない。顔が熱くなるのを感じる。
「いや、信じられねぇって。」
だってそうだろ?白鳥はいつも同じようにファンを口説いてるんだ。だから言葉に重みが無い。そのはずなのに、どうしてこんなに揺さぶられるんだ?
「だったら証明するよ。本気だって...」
白鳥は低く呟いた。
同時に腕を掴まれる。いつもの軽いボディタッチとは違う。体格差もあってか、振り払う事ができない。
「な、何するんだよ!」
白鳥は何も口に出さない。
白鳥との距離が更に縮まる。息遣いまで感じられる。前髪が触れ合う程の距離まで近づく。
ここまで来たら何をされるかなんて簡単に想像がつく。多分目を閉じた方が良いシーンだろう。あたしは...
「いい加減に...しろって!」
白鳥の脛を蹴り上げた。
白鳥は声も無く崩れ落ちる。そんな白鳥を見下ろす。普段ならありえない光景だ。
掴まれていた右腕はまだ熱を感じる。心臓も妙に早く脈打っている。
「いったぁ...何するんだよ...」
「調子乗んな...さっさと帰るぞ。」
涙目で抗議する白鳥を置いて歩き出した。白鳥はすぐに追いついてくる。
「ねぇ、私は依那ちゃんと恋人に...」
「冷静になれ。」
女同士だから、とか言うつもりは無い。それでも流石に順序があるだろ。白鳥は色々すっ飛ばしすぎだ。いきなりキ...キスは駄目だろ。
「いきなり恋人とかおかしいだろ!あたし達はまず友達じゃねぇだろ!」
「え?違うの...?」
「普通の友達は口説いたりしねぇよ。」
なんで白鳥があたしに惚れてるのか全く分からない。何処かで間違えたに決まってる。
白鳥だけじゃない...あたしもきっと間違えてる。
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