第3話
「そう言えば、何でわざわざ遠回りなんてしたんだい?」
「...まぁ色々あるんだよ。」
お前が苦手だからだよ。なんて流石に直接言うつもりは無い。
表情に出てるかもしれないけど白鳥は気付いているようには見えなかった。何を考えているか分からない笑顔の白鳥を見ると溜息が出てしまう。
「溜め息は幸せが逃げるよ。」
髪を払いながら、気取ったような口調で囁きかけてくる。
白鳥の距離感の近さが苦手だ。真夏だというのにこの距離感は暑苦しい。それに、さっきから何度か視線を感じる。グラウンドの前では陸上部の生徒が、コート前ではテニス部の生徒が、あたし達が通ると部活なんか放り出してあたし達を見てくる。
「白鳥、少し離れろ。お前のファンが見てるぞ。」
そりゃ何処の誰とも知れない女が愛しの王子様と2人で歩いていたら気が気じゃないだろう。あたしだって変な勘違いされたくない。ただ、このバカだけは違うらしい。
「なぁに、見せつけてやれば良いのさ。」
そう言ってあたしの肩に手を回す。暑さと周りからの視線が増した気がする。きっとあたしは酷い顔をしてるだろう。白鳥はムカつくくらい爽やかな笑顔だ。
「暑いからベタベタすんな。」
肩に伸ばされた手を振り払って足を速める。これ以上変な目で見られるのはごめんだ。白鳥はあたしの速足にも軽々と追いついてくる。
多分、白鳥は何を言ってもあたしに絡むのはやめない。折れるとしたらあたしの方か...
「なぁ...」
「どうしたんだい?」
「せめて少し離れてくれないか?...人目がある所では。」
人目が無ければ噂になる事も無い。だからこれが最大限の譲歩だ。白鳥は...いつもの王子様フェイスは何処に行ったのか。ケーキを前にした子供みたいにキラキラしている。
「つ、つまり人目が無ければくっ付いても良いって事かい!?」
「...噂になりたくないんだよ。お前はみんなの王子様だからな。」
「いやぁ嬉しいなぁ!依那ちゃんがやっと私に気を許してくれるなんて!」
「うるさいな...」
浮かれきっている...きっとあたしの言葉なんて都合の良い部分だけ切り取ってるだろう。本日三回目の溜め息、さっきより大きく息を吐き出した。
まぁ、いつもの気取った白鳥より今の子供っぽい白鳥の方が好きだ。分かりやすいからな...
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