第2話

白鳥玲、あたしや兎渡と同じ2年生だ。

彼女は所謂学校の王子様と言うやつ。さっきの人集りはファンの女子生徒達が白鳥を囲んでる光景だ。初めて見た時は面を食らったが今では見慣れた。

当の本人は文武両道容姿端麗、つまり完璧を形にしたような存在だ。まぁ全部兎渡が言ってた事だけど。

あと知ってる情報と言えば事あるごとにあたしに絡んでくることくらいだ。そして最終的に人集りに巻き込まれる。だからあたしは白鳥のことが苦手だ。


「やぁ依那ちゃん。」


そう、こんな芝居がかったような喋り方であたしに寄ってくる...なんでここにいる?


「し、白鳥?」

「ふふっ、私を置いて帰ろうとするなんて酷いじゃないか。」


さっきまで女子達の相手をしてたはず、なのに何で昇降口に先回りしてるんだ。と言うか一緒に帰る約束なんてしてないだろ。兎渡はどこ行った?

想定してない遭遇に頭の中がごちゃつく。


「大丈夫かい?暑いから色々気をつけないとね。」

「いや、そういうのじゃねぇから...」


頭が痛くなってくる。ここから逃げないと白鳥目当ての生徒が集まってくる。それに巻き込まれるのだけは御免だ。だから兎渡、早く来てくれ。

そんな願いを聞き入れたかのようにスマホが震える。画面には兎渡の名前が写っている。


「早く出てあげるといいよ。」

「...じゃあ遠慮なく。」


スマホを耳に当てるとすぐに兎渡の間延びした声が聞こえてきた。


『やっほー狛木ぃ。』

「おい、お前今何してる?」

『その慌てっぷり、白鳥さんが近くにいる感じ?」

「そうだよ!だから早く来てくれ!」

『いやぁ無事合流できてよかったよ。」

「は?」


いや、おかしいだろ。そもそも何で兎渡は白鳥の顔を見に行ったのに白鳥の方が先にここにいる?まさか...


「お前、白鳥にあたしを売りやがったな?」

『ごめんね、推しの笑顔には代えられないからさぁ。」

「意味分かんない事言ってんじゃねぇよ。」

『それじゃあ後は楽しんでね。』

「あっ、オイ!」


あたしの文句を聞く前にブツリと通話が切れる。

恐る恐る顔を上げると白鳥の顔には笑顔が張り付いていた。


「そう言う事だからさ、一緒に帰ろうじゃないか。」


恐らくあたしに拒否権は無い。こういう時の白鳥は強引だ。あたしにできる事と言えば歩く速度を速めるくらいだ。

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