第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト一首部門「ポッペン」

月夜の雨

ポッペンをふくらませる時のように張り詰めている病室の窓

大きく息を吸って、吐く。

吸う。吐く。吸って、吐いて、吸って、吐いて。

肩が、胸が、上下する。苦しい。診察室の中の酸素がどんどん薄くなってゆく。言わなきゃ。言わなきゃ。もう耐えられないんだ。何度息を吸って、吐いても、いつ口を動かせばいいのか分からない。予定されていたはずのいくつかのコトバが、頭の中で永遠にぐるぐるループする。言わなきゃ。

先生は、じっと、ただ座っている。待ってくれている。言わなきゃ。決めたんだから。もう、思い出してしまったから。壊れてしまいそうなんだ。

椅子も、机も、床も、足も、全部がぐにゃりと歪む。言わなきゃ。息を吸う。

「性暴力を、受けたことがあります。」

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第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト一首部門「ポッペン」 月夜の雨 @moonnight_rain

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