第1話 私は……。
「......ちゃん...お兄ちゃん!」
「うわぁっ!」
ものすごい声で飛び起きる。
「ここはどこ?なんか変なものでいっぱい。それにみんなもいない......。」
やはり、この世界に困惑しているようだ。それより気がかりなのは......
「お前、とりあえず服着ろよ。」
「? なんで?」
「いいから!」
どうやら裸を見られることに全く抵抗がないらしい。これが兄だと思っているからなのか、裸で過ごすのが普通の世界なのか……。
「これ着てろ。」
とりあえず俺の部屋着を貸してやった。白Tと短パン。しかし、だいぶサイズが大きいようで、襟からは谷間がのぞいているし、短パンはまるでバスパンのようだ。
「変な服ね、これ。こんなのどこで買ってきたの? おにいちゃん?」
「言っておくが、俺はお前の兄貴じゃない。」
「え? 何いってるの?」
「落ち着いて聞いてほしいんだが、恐らくお前は異世界に来た。」
「へ?」
少女は相変わらず訳が分からないと言う顔をしている。
「とりあえず、自分の身に起きたことを思い出してみたらどうだ?」
「……そうね。」
少女は暫く考え込むと、やがて納得したように頷く。
「何か分かったか?」
「えぇ。あんたは私の兄なんかじゃないし、ここは元いた世界じゃない。」
俺が兄貴ではないと分かると、急によそよそしい態度に変わる。先ほどまでの可愛らしい少女は何処かへいってしまったようだ。
「……さっきの忘れて。」
「なにをだ?」
「そんなのひとつしかないでしょ! あんたを兄と間違えたことよ。」
そりゃ恥ずかしいだろう。先生をお母さんと呼び間違えるのと似ている。ましてやこの性格だと余計に。
「とにかく、その、何か食べるものはない?//」
裸でいるのは恥ずかしくないくせに、腹が減っているのは恥ずかしいらしい。乙女なんだか、そうじゃないのか。
「嫌いなものは何かあるか?」
「特にないわ。強いて言うならマッシュマクトはあまり好きじゃない。」
「? ……そうか。」
この際もう気にしないほうがいいだろう。とりあえず俺は雑炊を作ることにした。「はい。お待ち。」
「ナニコレ?」
「たまご雑炊。」
「聞いたことない食べ物ね……。こんなもの食べてるの?」
「もちろん。」
「……変わってんのね、あんた。」
「この世界ではお前のほうが変だよ。てか、お前、この世界の人間じゃないだろ? なんでこの世界に来たんだ? すげぇボロボロだったし。そういえばケガは? 全部治ってるじゃないか?」
「はいはいそこまで。質問は1つずつ。」
「あぁ、わるいわるい。じゃあ1つ。もう体調はいいのか? それに今まで気づかな かったけど、傷がもう完治してるみたいだが?」
「体調はもう平気。ケガも完全に治ってるわ。てか、ケガなんて寝れば治るものでし ょ?」
「あのレベルのケガだと、早くても一か月はかかる。」
「あんた貧弱ねぇ。」
「……2つ。これは質問と言うか忠告だが、服は着たほうがいいぞ。」
「なんで?」
「この世界ではそれが普通だ。服を着ないで町を歩いたりしたら捕まるぞ。」
「ふーん。分かったわ。」
「3つ。お前はなぜこの世界に?」
「ねえ。」
「なんだよ?ちゃんと質問に……」
「君っていうのやめない? 私にはちゃんとした名前があるし。」
「それもそうだな。俺は加賀尚人(かが なおと)。好きに呼んでくれて構わな い。」
「私の名前はエレノア。
エレノア・バーンスタイン。」
フリーター俺、異世界出身少女と同居する。 伊井ひろひと @02040706
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