ありがとう
少しの間呆然としていた。自分の無力さを思い知らされた。絶対に自分や妹のような人を出さないと決意してここに来たはずなのに。
結局俺はダメだった。母親を無くしたあの子はこれからどう生きていけばいい?俺はどう責任を取ればいい?
そんなことを考えていると背後から声がかけられた。
「あの…」
俺はゆっくりと振り返った。そこにはこの前ダンジョンであった子が立っていた。
「あぁ…この前の…」
俺がそう言うと女の子は口を開いた。
「覚えててくれたのね。えっと…確かにあの子のお母さんは残念だったけど…あなたはたくさんの人の命を救ったのよ。だから…」
「あぁ…ありがとう」
きっと俺は今何を言われても自分のことを許せないだろう。何が俺はは強いだ。弱いままじゃないか。
「くそ…くそくそくそッ…」
なんど悔やんでも死んだ人間が生き返るわけがない。取り返しがつかないんだ。
あの子はまだ母親の亡骸に寄りかかって泣いている。
「ごめん…本当にごめん…」
俺は泣きながら謝ることしか出来なかった。
「慎也…」
己の無力さに嫌悪感を抱いていたとき、太ももの裏に手のような感触を覚えた。振り返るとそこには母親を失った子供が立っていた。
きっと恨み言を言われるのだろう。俺はそう思っていた。母親を助けられなかったのは俺だ。どんな言葉でも受け入れよう。
「お兄ちゃん」
「な、なにかな」
そう聞くと男の子は決心したような顔になりこう言った。
「…ママを助けようとしてくれてありがとう」
「え?」
一瞬、何を言われているのか分からなかった。男の子の口から発せられたのは恨みのこもった言葉ではなく感謝の言葉だった。だが分からなかった。何故感謝の言葉なんて…
「ママは…死んじゃったんでしょ?」
「っ!」
そう言われた瞬間、俺は男の子を抱きしめた。
「ごめん!俺が無力だったばっかりに君のお母さんを助けられなくて…本当にごめん!」
「…僕ね、ママのことが本当に大好きだったんだ。ママも僕のことが大好きだって言ってくれたんだ。だからね。僕は大丈夫。ママのことは絶対に忘れたりしない。お兄ちゃん……ありがとう」
俺と男の子は抱き合って泣いてしまった。俺が守れなかった命は戻ることは無い。誰かに恨まれるかもしれない。でも、今この男の子から言われた言葉は俺を救ってくれた。当然まだ後悔している。でも…この子が生きていて本当に良かった。
「お兄ちゃん、僕も強くなれるかな。大事な人を守れるくらい…強くなれるかな」
「なれるよ。絶対になれる」
きっとこの子は本当に強くなる。それにこの子はもう人として強い。
俺は男の子にこう言った。
「ありがとう」
【あとがき】
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