電話

オーバーフローが収まって後、俺は家に向かい歩いていた。


「…」


あの子の母親を救えなかった。それはもう変えることの出来ない事実だ。もうあんな思いをする子を増やしてはいけない。そう心に強く刻みつけた。


そんなことを考えているとポケットの中にあったスマホが震え出した。


ポケットからスマホを取り出しディスプレイを確認すると、そこには中宮さんの名前があった。


「もしもし?」


スマホを耳に当てながらお決まりの言葉を言うと中宮さんから言葉が帰ってきた。


「高雛さん。こんなふうに伝えるべきでは無いと言うのは承知の上なのですが、オーバーフローを収めて頂き本当にありがとうございました」

「…いえ、俺は当然のことをしただけですから」

「本当に…ありがとうございました」


電話越しでも中宮さんの真剣さが伝わってくる。


「それで今回のオーバーフローで分かったことがあります」

「分かったこと?」

「はい。オーバーフローが起きる前のメタホール付近は魔力が極端に多くなっているのです」


…魔力が多くなっている場所でオーバーフローが起きるのか。


「それって直前に多くなるんですか?」

「いえ、違います。数年前から多くなっていくようです」

「そうなんですか」

「はい」

「それって抑える方法とかあるんですか?」


そんな方法があるならオーバーフローを未然に防ぐことが出来る。


「完全に抑えることは難しいですが、オーバーフローが起きそうなメタホールに入ってダンジョン内の魔物を倒せば魔力が一時的に抑えられるようです」


つまり定期的に潜られているダンジョンは大丈夫ってことか…


「今回起きたオーバーフローは地中にあったメタホールが誰にも見つけられることなく何年も放置状態にあったため魔力がその場に溜まり続け起きた、と先生は言っていました」


なるほど。地中にあったのか。確かに探索者シーカーの男の人が言ってたじゃないか。


突然魔物が地面を突き破って出てきたって。


「大体のことは分かりました。それとこれからは魔力が濃いメタホールを教えてください。俺がそこを攻略します」

「え?で、ですが私たちが提示した条件は我々ではどうにも出来ないダンジョンの攻略、封鎖であってそこまで手を回して頂くわけには…」

「いいですから。ちゃんと言ってくださいね」


念押ししてそう言った。もうオーバーフローを起こすわけには行かない。ならオーバーフローを起こさなければいい。そうすれば無駄な犠牲を生むことが無くなる。


「本当に何から何まで…ありがとうございます」

「いえ、俺がしたくてしてる事なので」


こうでもしないとあの人が報われない。なんの罪もない人がわけも分からずただ殺されるなんて…そんなことあっていいはずがないから。


そこで中宮さんとの電話を切った。


「ふぅ…」


1つ小さなため息を吐く。葉由奈は怒っているだろうか?きっと怒ってるんだろうな。できるだけ説教は短くお願いしたい。


手に持っていたスマホをポケットの中にしまう。少しだけ憂鬱な気分になりながら歩く。


数分歩いたところでまたポケットの中にあるスマホが震えた。


「次は誰だ?」


もしかしたら葉由奈から早く帰ってこいと催促の電話かもしれない。そう思いながらディスプレイを確認する。するとそこにはまた中宮という文字があった。


「なんだ?さっき何か伝え忘れてたのか?」


そう思いながらスマホを耳に当て言葉を発する。


「もしも…」

「高雛さん!!」


うおっ!び、びっくりしたした…一体なんなんだそんな大きな声を出して。中宮さんは先程と打って変わって切羽詰まったような声だった。


「ど、どしたんですか?」


あまりの声量に少し耳を離しながらそう聞く。


「また…またオーバーフローが起きました!!」


それを聞いた瞬間、先程まで抜けていた俺の気が一気に引き締まった。


「どこですか」


俺は直ぐにそう聞いた。


「…ぇっと…それが…」


中宮さんは言葉に詰まるようにそう呟く。


「なんですか?!早く言ってください!」


すこしの苛立ちが募る。今度は救えるかもしれない命があるんだ。こんなところでグズグズしている暇は無い。


「…高雛さんの家です」



【あとがき】


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