無力
「『深淵から出迎える
俺がそう唱えると襲われそうになっていた人の前の魔物が深い闇の中へ引きずり込まれて行った。魔物に襲われそうになっていた人は呆然としていたが今は構っている暇などない。
「くそっ!数が多すぎる!」
先程からずっと戦っているが一向に敵の数が減っていない。
「『
前に発動した時よりも魔力を多く込める。すると拳銃の量が倍の八丁になった。
「『FIRE《発射》』!」
そう唱えると八丁の拳銃から一斉に弾が打ち出された。八つの弾はそれぞれバラバラになり魔物を貫く。すると俺の体に魔力が流れ込んできた。
魔力には困らない。こんなに魔物がいるのだから。だが明らかに手数が足りていない。
「キャー!誰か!誰か助けてぇ!!」
「っ!」
そんな声が正面から聞こえてきた。そこにはゴブリンのような魔物に襲われてかけている女性の姿があった。その後ろには泣きじゃくっている子供もいる。
「間に合え!」
魔法を発動する時間がないと判断した俺は助けを求める女性に向かって全力で走り出した。だが無情にもゴブリンのような魔物は手に持っていた棍棒で女性の頭を潰した。
その瞬間俺はゴブリンのような魔物の腹をを全力で殴った。魔物の腹の中から俺の手が覗いている。
「ママ?」
小さな男の子が母親であろう頭の潰れた女性に近寄る。
「ママ、ねぇママ起きてよ。なんで起きてくれないの?」
小さな男の子は泣きながら何度も何度も母親の体を揺すっている。
「…」
俺はその光景にを見て胸が締め付けられるような感覚になった。
間に合わなかった。この人を死なせてしまった。この男の子はこれからどうなる?母親を失ったこの子はどうなるんだ?俺や葉由奈のような人を出さないと決心した。それなのにこのザマか?俺は…俺は何をやっていたんだ?
自己嫌悪に苛まれる。これからこの子が歩む人生を想像すると罪悪感で立っていられなくなりそうだ。いや、違うだろ。後悔するのは後にしろ。まだ残っている人たちが沢山いるんだ。
俺は右手を前に差し出した。その時、手は開いていた。そのまま腕を左から右へゆっくりと動かしこう唱えた。
「…『鉄の
すると俺がゆっくりと腕を動かした時にその範囲に居た魔物たち全ての周りに複数の黒く小さい球体のようなものが現れた。
そして俺は開いていた手を握りつぶす。その途端、魔物たちの周りに浮いていた球体から魔物目掛けて黒く鋭い針が伸びた。串刺しにされた魔物たちは苦しそうに呻き声を上げながら息絶えた。
今放った魔法も闇魔法だ。つまり今倒した魔物の魔力が全て俺に還元される。
「『
そう唱えて今持っている全ての魔力をつぎ込んだ。すると俺の背後から無数の拳銃が現れる。
「『FIRE《発射》』」
そう唱えると凄まじい轟音と共に全ての魔物に向かって銃弾が飛んでいく。心臓を貫き、頭を貫き、全ての魔物を絶命させる。
「…」
俺はその光景を無言で見つめていた。魔物が死んだって殺された人が生き返るわけじゃない。
数分後、全ての魔物が煙となり消えた。
「た、助かったのか?」
「ほ、ほんとに?」
「…助かったぞ!みんな!俺たちは助かったんだ!」
そんな声が周りから上がる。
「ありがとうございます!」
「助かりました!」
「わ、私…もう、本当にダメかと…」
この場にいた人たちが次々と俺に近寄ってきて感謝の言葉を述べる。
「…」
俺はそれをただ呆然と聞いていることしか出来なかった。救えなかった…誰も死なせないと決心したのに。
先程の場所を見るとまだ男の子が母親に寄り添い揺さぶっていた。それを見た瞬間、俺の目からはとめどなく涙が溢れてきた。
「ご、めん…ごめんなさい…」
俺はあの子の気持ちがわかる。痛いほどに。だからこそ俺はあの子に恨まれても文句など言えるわけがない。
ふと見ると、男の子に近づいていく人影が見えた。あれは…前にダンジョンで会った子?
「ママ…ママ…」
「…残念だけど、ママはもう起きないの」
は?お前何言って…
「なんで?なんでママは起きないの?」
「ママはね。遠くに行っちゃったの」
「なんで遠くに行ったの?!僕が悪い子だから!?」
「違うよ。ママはね、君がもう1人でも大丈夫だと思ったから遠くに行ったんだよ。だからね…き、君は…お母さんの分までちゃんと生きないといけないよ?」
そう言うとダンジョンで会った子は泣き出してしまった。
「ママ…ママ…」
男の子もまた泣き出してしまった。結局俺はその男の子に声をかけることが出来なかった。
俺はなんて無力なんだ。
【あとがき】
遅れてしまって申し訳ありません!ストックが無くなってしまったのでこれから不定期更新になってしまうかもしれません。それでもいいという方はこれからもよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます