オーバーフロー

「…」


俺は今久しぶりに家でゴロゴロしていた。今日は休日で学校がない。それに昨日換金したお金も莫大な数で入ってくるには少し間が開くと言われた。だからまだ銀行にはお金が入ってきていない。もし既に入ってきていたのなら喜んでお金を引き下ろして葉由奈に好きなものを買っていたのに…ちなみに葉由奈は今自分の部屋で課題をしていた。俺は既に終わっている。


俺は何となくスマホを手に持ちyoTUBEを開いた。久しぶりにダンジョン配信でも見ようと検索をかける。


「誰かやってるかなー…」


そう思い見てみると既視感のある顔を見つけた。


「ん?この子って…俺があのダンジョンで助けた子だよな?」


そう、そこには俺が真っ黒うさぎから助けた女の子が画面に映っていた。


「よかった…」


今のよかった、はダンジョンで危険な目に合えばそれがトラウマとなりもうダンジョンには潜らないくなってしまうのではないかと密かに心配していたからだ。まぁそれの心配は杞憂に終わりこの子は今も配信をしているのだが…


「ちょっと見てみるか」


そう思い配信をタップする。すると動画が流れる。


「ふふっ…」


すると自然な笑顔を浮かべている女の子の顔が画面に映った。いい笑顔だ。


『っ!今夏美ちゃんが女の顔したぞ!』

『あー…まじで好きなんだな…』


そんなコメントが流れる。なんだなんだ?この子誰か好きなのか?いいねぇ…青春してるねぇ…まぁ俺には関係の無いことなんだけどね!なんか自分で言ってて悲しくなってきた…


「な、何言ってんのよ!そ、そんなんじゃないし!も、もうダンジョンに行くわよ!今日は中級ダンジョンに…」


どうやら今日は中級ダンジョンに行…


「っ!」


その時、地面を揺らすほどの轟音が響いた。な、なんだ?地震か?いや、でも地震ならこんな音ならないはずだ…


そんなことを思っていると葉由奈が部屋から飛び出してきた。


「お、お兄ちゃん!!じ、地震?!」


そう言ってリビングに設置されている机の下に急いで潜った。だが揺れはあの一瞬だけで既に収まっていた。


「…」


なぜだかとても嫌な予感がする。なんなんだこの胸騒ぎは…


その時、突然スマホが鳴り響いた。びっくりして確認すると、そこには中宮さんの名前が表示されていた。電話に出ると焦ったような中宮さんの声が聞こえてきた。


『た、高雛さん!』

「ど、どうしたんですか?」


あまりの焦り具合に気圧されながらもそう聞き返す。


『ま、街で…オーバーフローが起きました!』


そう聞いた途端、心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。呼吸が荒くなる。かつての記憶が蘇る。俺と葉由奈を逃がすために魔物の餌食になってしまった両親のことを。


「…どこですか」


自然と声が低くなる。


『え?』

「どこで起きたんですかって聞いてるんですよ!」


言葉が荒々しくなる。


「お、お兄ちゃん?」


葉由奈はそんな俺の様子を見て不安そうな顔をしていた。


『す、すみません!えっと、起きた場所は━━━です!』

「分かりました。すぐに向かいます」


そう言うと俺は電話を切った。立ち上がり歩き出そうとすると違和感を感じた。違和感のある右手の方に目を向けると、そこには袖を掴んでいる葉由奈の姿があった。


「…ねぇ、どこ行くの?」


葉由奈の目には不安が募っていた。


「…オーバーフローが起きた。お兄ちゃんな、今からそれを制圧しに行ってくる」

「…」


そう言うと葉由奈は黙ってしまった。きっと反対されるんだろう。だがここはなんとしてでも…


「止めても行っちゃうでしょ?」


そう言った葉由奈は泣いていた。


「分かっているの。お兄ちゃんがこの事態を放っておけないって。私たちのお父さんとお母さんが一緒だったから。分かってる…分かってるけど不安なの!ねぇ!約束して!絶対に生きて帰ってきて!それが約束出来ないんだったら行かせない!」


そう言われた俺は即答した。


「約束する。俺は絶対に生きて帰ってくる。だから葉由奈、待っててくれ」


そう言うと葉由奈は下手くそな笑みを浮かべて俺の袖から手を離した。


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『影を移動するシャドウ・ムーブ』を利用して全速力でオーバーフローが起きた場所まで来た。


「っ!」


そこは酷い有様だった。人々が絶叫し逃げ惑い、そこかしこからは火が燃え上がっている。街は魔物で溢れかえりその数は軽く1000は超えているだろう。何人か探索者シーカーらしき人たちが魔物と交戦している。


「くそ!」


1人悪態をついてやられそうになっていた探索者シーカーの元へ駆け寄った。


「うわぁ!来るな!来るなぁ!」


男性は今にも目の前の狼のような魔物に襲われそうになっていた。


「『暗黒のダークネス・コクーン』!」


そう唱えると狼を真っ暗な球体が覆いこんだ。俺の体に魔力が流れ込んでくる。


「…え?た、助かったのか?」

「大丈夫ですか!?」


俺は急いで駆け寄りそう声をかけた。


「あ、あんたは…慎也か!?」

「今はそんなことどうでもいいです!それより状況は?!」


一刻も早く状況を把握しておきたかった。


「あ、あぁ。突然魔物が地面を突き破って大量に出てきたんだ。今は逃げ遅れた人達を俺たちが守りながら戦ってる」


あの轟音は魔物が地面を突き破った音だったのか。


逃げ遅れた人たちを守りながら…絶対にこの人達を死なせない!



【あとがき】


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