模擬戦 1
「あぁ、いきなりだろうと関係ない!するのか?しないのか?」
「いいですよ。しましょう」
俺と新堂という男はそう言い合うとお互いニヤリと笑った。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
そんな俺たちを中宮さんが止める。
「あなた達が戦うと街に甚大な被害が出てしまいます!」
「あ…確かに…」
俺はそう言われて確かにそうだと納得したが出鼻をくじかれた気分だった。新堂さんも不服そうな顔だった。
『せ、セーフ…』
『あぶねぇ!』
「ですので本部の模擬戦場で模擬戦という形をとってください」
中宮さんはそう言った。
「っ!そう来なくちゃなぁ!」
途端、大の大人の新堂さんが子供のような無邪気な笑顔を浮かべた。かく言う俺も笑顔になるのを抑えられていないのだが。
『なんでこいつら笑ってんだよ!』
『やべぇ…やべぇよ…』
「新堂さんだけでいいんですか?」
俺は他の六柱に向かって挑発的にそう言った。すると全員の目が細くなった。
「あらあらあらあら?新堂に勝つつもりなのかしら?」
お姉さんがうふふと笑いながらそう言ってくる。
「えぇ、新堂さんだけだと俺の実力が分からないと思うので」
これはあまり本気で言っていない。みんなの闘争心を燃やすためにあえてこんな物言いをしている。1度入ったスイッチはなかなか切れないのだ。
「あんた調子乗りすぎでしょ」
俺と同じ歳くらいの少女が俺を睨みつけながらそう言ってくる。
「それは俺の実力を見てから言って欲しいですね」
その少女に向かって顎を持ち上げながら挑発的な笑みを浮かべる。
「あんた…」
少女の俺を睨みつける目がより鋭くなった。
『おいおいおい!お前何言ってんだよ!』
『確かに慎也は強いけど六柱全員を相手にするなんて…』
『でも慎也なら勝てるかもって思うよな…』
「こ、ここで始めないでくださいよ?」
焦った中宮さんにそう言われて俺たちは会議室から模擬戦場に向かった。その間も六柱全員から痛いほどの視線が突き刺さった。
そして模擬戦場についた。
「ここが模擬戦場…」
そこは何も無い部屋だった。全ての壁が鉄のような金属で覆われていて物ひとつ置いていない殺風景な正方形ほ部屋だった。部屋はかなり大きい全力で動き回っても大丈夫な程に。
『なんにもないな』
『壁と床は鉄か?』
「この部屋の壁と床は鉄にダイアモンドを溶かして混ぜ合わせた特殊な合金を使用しています。なので多少の衝撃は問題ありません。それと武器を使うなら武器庫に訓練用の武器があるので使ってください」
中宮さんがそう説明してくれる。
『ダイアモンド…』
『一体いくらかかるんだ…』
「さぁ、早速やろうか…」
自分の体ほどある大剣を持った新堂さんが待ちきれないといった様子でそう言ってくる。
「えぇ、そうですね」
それは俺も同じだった。
「すみません中宮さん、これ持っててもらっていいですか?」
「え?あ、はい」
そう言って俺は中宮さんにスマホを手渡した。
俺と新堂さんは部屋の中央へ歩いていき向かい合った。俺と新堂の間はおよそ5メートル。そして相手の武器は大剣。きっと大振りになるはずだ。そこが狙い目。
「…始め!」
中宮さんのその一言で俺と新堂さんは同時に前に出た。そして俺の予想通りに新堂さんは大剣を大きく振り上げた。チャンスだ。この隙を…
「っ!」
そう思ったが俺は体を捻って横に逸れた。次の瞬間、かなりの衝撃と風が俺の頬を撫でた。俺が先程までいたところには大剣が振り下ろされていた。つまりありえない速度で大剣を振り下ろしたということだ。
『え?』
『はっや!』
「あのデカさの大剣を見えない速度で…」
そんな速度で振れるのか…
「よく避けたな!」
新堂さんは嬉しそうに笑いながらそう言ってきた。
「…『身体強化』ですか?」
考えた結構俺の知っている魔法ではそれが1番近いと思った。すると新堂さんはニヤリと笑った。
「いや、違う。俺の魔法は物の重さを自由に変えることができる魔法だ」
なるほど。だから武器も大剣を選んでいるのか。
「まぁ俺の魔法が分かったところでどうすることも出来ないがな!」
そう言いながら新堂さんはもう一度俺に突っ込んで来る。
「っ!『
俺は咄嗟に無属性魔法を発動してその場から飛び退いた。そしてまた衝撃が部屋に響く。
「ほう!これも避けるか!」
新堂さんは更に嬉しそうな顔になった。
「『影を移動する
『お、慎也の魔法だ』
『『影を移動する
俺は『影を移動する
「へぇ、あれが慎也君の魔法…動画で少し見たけど実際見ると変な感じね。あんな魔法見たことない」
「お兄ちゃんどこ行ったの?」
「さぁ?どこかしらね」
「ぬ?」
新堂さんは周りをキョロキョロして俺を探している。
「『
そう唱えた瞬間、『影を移動する
「ぶはっ!」
拳には頬骨を殴った硬い感覚があった。殴られた新堂は壁まで吹き飛んだ。さぁ…これで終わりじゃないだろう。かかって…あれ?
「…」
壁まで吹き飛んだ新堂は首をガックリとさせており動かなかった。
「そこまで!」
中宮さんのそんな声が響いた。
「え?お、終わり?」
『は?慎也勝ったの?』
『まじ?』
『強すぎん…?』
「…ちょっとはやるみたいね」
「うわぁ!お兄ちゃんやっぱり強い!」
「あぁ…なんて強さなんだ…僕なんて足元にも及ばないよ…」
「強いわねぇ…」
「…」
俺は薄々気づいていたことがある。きっと俺は強い。潜った事のあるダンジョンがあの封鎖されたダンジョンしかなかったため、あのダンジョンの魔物が弱いと錯覚していた。だが実際にはボス部屋にたどり着くまでにいた魔物でもかなりの強さがあるらしい。
「えっと…次は誰ですか?」
俺はそう言った。なんというか…消化不良だ。
「うーん…私が行こうかしら?」
そう言ったのはお姉さんだった。
「確かまだ自己紹介が済んでなかったわよね。私は
「あぁ…はい」
「私はね!私は
「う、うん。よろしく」
紗乃さんの自己紹介に便乗したのか木下ちゃんも自己紹介してくれた。
「ああ…そういえばまだ自己紹介してなかったね…僕は
「よろしくお願いします…」
なんだか斉藤さんと話してるとこっちまでどんよりした気分になるんだよな…
「
「え?あ、あぁ…よろしく」
白川は自分の名前だけ言うとぷいっとそっぽを向いてしまった。俺なんかしたっけ?
「…」
「…えっと?」
未だに一言も声を発していない無表情の男は俺の目を見つめている。この人気味悪いだよなぁ…
「…
「よ、よろしくお願いします…」
多崎さんと言うらしい。あんまり見ないで欲しいなぁ…
新堂さんはまだ気絶していた。それを見かねた中宮さんが職員を呼んで新堂さんを運ばせていた。
「えっと紗乃さん?しますか?」
「そうねぇ…やっぱりいいわ。きっと私じゃ君に勝てないだろうからね」
…それじゃあ俺のこのやり場のない闘争心はどうしたらいいだよ!
「じゃあ私がやっていい!?」
木下ちゃんが元気よくそう言った。
「木下ちゃん?」
俺は正直この子と戦うことに乗り気ではなかった。まだ小学生程であろう女の子と戦うなんて…怪我をさせたら責任なんて取れない。
「うーん…でもなぁ…」
「慎也くん。大丈夫よ。この子ちゃんと強いから」
迷っていると紗乃さんがそう言ってきた。
「…分かりました」
俺は渋々そう言うと木下ちゃんと向き合った。木下ちゃんは手に何も武器を持っていなかった。
「お兄ちゃん!手加減は要らないからね!」
「う、うん」
屈託のない笑顔でそう言われる。でもなぁ…
「…始め!」
中宮さんの合図と共に木下ちゃんが腕を前に突き出した。
「いっけぇ!」
そう叫んだかと思うと木下ちゃんの背後にカラフルな魔法陣のようなものが展開された。それは5つあり、そこからそれぞれの属性の魔法が飛び出してきた。
水、炎、氷、風、雷
その5属性が俺を目掛けて降ってきた。すんでのところで後ろに飛び退いた。こ、この子…可愛らしい見た目からは想像できないくらい凶暴だな…
『っ?!』
『幼女がとんでもない攻撃してる…』
『世界最強の幼女ww』
「おお!避けた!じゃあ次はこれ!」
そう言って炎属性の魔法と風属性の魔法を発動させたかと思うとそれが合わさり炎の竜巻を生み出した。
「すごいな…」
あんな小さな体から膨大な量の魔力を感じる。やっぱり六柱は強いんだな。
「『暗黒の
俺はそう言って竜巻に向かって魔法を発動した。すると竜巻の中心に黒い球体が出てきてたちまちに竜巻を吸収してしまった。
「うわ!私の魔法が消えちゃった!」
びっくりしたを体現したような顔をした木下ちゃんがまた別の魔法を発動する。
「それ!」
そう言って次は水属性の魔法に雷属性を合わせた触るだけで感電する水のビームを打ってきた。
この子絶対賢いよな。どの魔法が相性がいいのか分かっている。
「『暗黒の
俺はもう一度そう唱える。するとやはり真っ黒な球体がビームを全て吸収してしまった。
「うわわ!えぇっと…つ、次は…」
「それ」
木下ちゃんが迷っている間に俺は距離を詰めて軽くおでこにチョップした。
「あた!」
木下ちゃんはおでこを抑えて上目遣いでこちらを見てきた。
「あー、負けちゃった!お兄ちゃんとっても強いね!」
「木下ちゃんもめちゃくちゃ強かったよ」
俺は木下ちゃんに笑いかけた。なんだか葉由奈の小さい頃を思い出すな。
「木下ちゃん?私の事あゆって呼んでいいよ!」
「おぉ…」
『…可愛い』
『かわいい』
『食べちゃいたい!』
『お巡りさんこいつですww』
こ、これが小さい子のコミュ力か…恐ろしや…
「ありがと、あゆちゃん」
「うん!」
あゆちゃんと話していると後ろから足音が聞こえた。
「次は私とやりなさいよ」
そこには見下すような目で俺を見ている白川が立っていた。
【あとがき】
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