模擬戦 2

「次は私とやりなさいよ」

「白川 華…」


そこに居たのは俺を見下すように見ている白川だった。俺この子に何かしただろうか?特に思い当たるような節は無い。


「別にいいけど」


ただ何もしていないのにそんな態度を取られて気分がいい訳もなく、俺は少しだけ冷たくそう返した。


「ふん、まぐれで2人に勝てたからって調子に乗らないことね」


おいおい…まぐれで六柱の2人に勝てるわけなかろうが…


『慎也…まぐれだったのか…w』

『そんなわけなくて草』

『嫌な感じだなぁ…』


「はいはい、わかったよ」


真面目に取り合うのは馬鹿らしくなってしまいそうだ。


「チッ!」


本当に俺なんにもしてないよな?心配になるレベルで嫌われている…


「ほらもう行こうぜ」


そう言って俺は中心まで歩いた。白川は武器庫から双剣を持って歩いてきた。


双剣か…双剣はだいたいスピードが速いイメージがあるんだよな…


「…」

「…」


俺と白川は睨み合うように対峙した。


そして数秒後


「…始め!」


中宮さんの声が聞こえてきた。次の瞬間、目の前には双剣を両方上から振り下ろしてきている白川がいた。


やはりスピードタイプか。予想していたため対応が出来る。


「『影を移動するシャドウ・ムーブ』」


そう唱えると俺の姿は闇に消えた。そして新堂さんとの戦いと同じように白川の影に潜む。そして飛び出す。


「はっ!」


かなり強めに蹴りを放つ。だがその蹴りは白川の右腕に防がれた。


「おぉ、これを止めるのか」

「はっ!そう何回も同じ手が通じると思わない事ね!」


『止められた!?』

『マジかよ!』

『さすが六柱』


そう言って防いだ右腕をそのまま横に振ってくる。俺は白川の右腕についていた自分の足に力を入れ思い切り前に押し出す。すると力の反動で俺の体は白川から距離を取った。


「『身体強化』…では無さそうだな…」


身体強化は身体の筋肉などを強化する魔法であってこんなに持続的にスピードを上げられる魔法ではない。


「そうよ。私は自分の時間を操作することが出来るの」


自分の時間を操作?つまり今の白川は普通の人より速く生きているということか?


「だから今は2倍の速度で動いてる」


『やばww』

『チート能力ww』

『なるほど…慎也風に言うと『時を置き去りにするリーブビハインド・タイム』だな』

『あーwぽいなww』


なるほど。2倍の速度と聞くとそうでも無いと思ってしまうかもしれないが、きっと『身体強化』などの他の魔法と併用しているのだろう。


「まだ上げれるわよ」


そう言って白川は勝ち誇ったような笑みを浮かべ呟く。


「『速度上昇・3倍』」


途端、白川の姿が目の前から消えた。


「っ!」


俺は咄嗟に魔力の流れを感じて後ろに飛び退いた。すると先程まで俺がいた場所に白川が現れ双剣を横一直線に振るった。


「へぇ…まぐれで2人に勝ったわけではなさそうね」


ふーむ。いくら魔法を吸収出来ると言っても物理は普通に食らってしまう。それにあのスピードは脅威だ。どうしたものか…


そういえば白川からは六柱の他の人より魔力の流れがわかりやすいんだよな…きっと物理に特化しているタイプだからだろう。


魔力の流れ…あぁ、そうか。その魔力の流れに向かって俺の魔法を放てばいいんだ。


俺の魔法は魔法を吸収する。勝手に闇魔法と呼んでいるが、闇魔法は魔法を吸い取るのだ。つまり生物のように本能で魔力を求める。それに俺が少しの操作性を加えれば…


「『追跡者チェイサー』」


俺がそう唱えると俺の背後から黒いモヤのようなものが出現し、そのモヤの中から拳銃が四丁出てきた。その拳銃は全て浮遊しており、照準は白川を捉えている。


『なんだなんだ?!新技か!?』

『銃?』

『慎也さん不味いですよ!』

『ちょい待ち。銃は犯罪になる』


「FIRE《発射》!」


俺がそう言うと四丁の拳銃が全て同時に発砲された。発砲された玉は真っ黒でどこか禍々しさを感じる。


「チッ!」


自分に向かって射出されるのがわかったのか、白川は先程と同じで見えないスピードでどこかに行ってしまった。だが魔力の流れは微かに感じることが出来る。真っ黒な銃弾がその魔力の流れを追うように激しく飛び回る。左に曲がり、上に上がり、下に落ちて尚魔力の流れを追いかける。当然追いかけているのは魔力を持っている白川だ。


「っ!」


やがてひとつの銃弾が白川の左ふくらはぎに命中した。それによってよろめいた白川に他の三弾も命中。背中に二弾、右肩に一弾。


『当たった!』

『ん?銃弾ってこんなに威力弱かったっけ?』

『てかどんな動きしてんだよwwなんで縦横無尽に銃弾が動くんだよww』


「ぐっ!」


白川が苦悶の表情を浮かべる。だが『追跡者チェイサー』の効果はただ痛みを与えるだけじゃない。さっきも言ったが俺の魔法は魔法を吸収する。魔法を発動するためには魔力が必要だ。つまり正しく言えば魔力を吸収するのだ。


「は、離せ!」


白川に命中した四弾の銃弾は当たって損傷した部分から銃弾がドロドロとした水のように入り込む。


「な、何!?いや!やめて!」


そして完全に入り込んだ銃弾は白川の魔力を吸い上げ出した。


「う、あ…」


ほとんど白川の魔力を吸い上げてしまった銃弾たちはまた損傷した部分から水のように溢れ出てきた。そしてそのまま消えてしまった。だが確かに白川の魔力は俺の身体に流れ込んで来ていた。白川の顔色は先程の比べると明らかに悪くなっており今にも倒れそうなほど辛そうな表情だった。


「そこまで!」


それを見た中宮さんがそう声を張り上げる。


『なんだあれ…やべぇー…』

『『追跡者チェイサー』ww』

『慎也節が炸裂したなww』


不味い、少し吸いすぎたか?


「大丈夫か?」


俺は白川に近づきそう声をかける。すると白川は相変わらず俺を睨みつけてくる。


「だ、大丈夫よ!あんたに心配される筋合いなんてないわ!」


…元気そうでなにより。


この後は…


「ぼ、僕は…遠慮しておくよ…勝てるわけないから…」


斉藤さんがそう言う。


「お前の…実力は…よくわかった…それに…俺は人間相手では…本気が出せない…」


多崎さんは目を見開き俺の目を見つめたままそう言った。


「そ、そうですか…」


どうやらこれで終わりらしい。まだ少しの消化不良感はあるが新技を作ることが出来たからよしとするか…


『あれ?慎也戦った全員に勝ってね?』

『強すぎる…』

『間違いなく日本最強クラスだよな』

『世界で見ても最強クラスなんじゃないか?』


「高雛さん、これからどうしますか?あ、これ返しておきます」


中宮さんにスマホを返してもらいつつそう聞かれた。


「あ、ライセンスを取ったばかりで悪いんですけど魔物の素材を買い取って貰えませんか?」

「えぇ、いいですよ」


俺がそう言うと中宮さんは了承てくれた。


「それで魔物の素材はどこにあるんですか?今日は手ぶらで来ていたようですが…」

「それならここにあります」


そう言って俺は魔法を唱える。


「『深淵から出迎えるグリート・アビス』」


すると俺のすぐ隣の地面に真っ黒な水溜まりのようなものが出来る。そこから手が生えてきてその手が魔物の素材を手渡してくれた。


「この中にかなりの量の素材があるので全部売ります」

「わ、分かりました…では査定に向かいましょう」


そう言われて俺は模擬戦場を後にする。


「お兄ちゃん!またね!」


あゆちゃんが元気に手をブンブンと振ってくれる。


「うん。またね」


俺も軽く手を振り返す。可愛いな…


『なんて可愛いんだ…』

『お持ち帰りしてぇ…』


白川は相変わらずずっと睨んで来ていた。何がそんなに気に入らないんだよ…



【あとがき】


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