報告配信、邂逅
今日は
「葉由奈、行ってくるな」
「…うん」
葉由奈は少しくらい声でそう言った。どうやらまだ完全には納得してくれていないようだ。でも俺は引けないんだ。
魔物の素材を全て『深淵から出迎える
『深淵から出迎える
数分後、あることを思いついた俺は大智に電話した。すると大智は数コールで出た。
「有名人様が何か用か?」
「なんだよその言い方」
俺は悪態をつきながら返事を返す。
「悪い悪い」
大智はそう言いながら笑う。
「それで?なんの用だ?」
大智にそう聞かれた俺は要件を伝えた。
「なぁ、配信ってスマホからでもできるのか?」
「配信?まぁできるが…ダンジョン潜るならスマホは不便だぞ?」
「いや、別にダンジョンに潜るわけじゃない。今日は報告配信をしようと思ってな」
「報告配信?」
「あぁ」
そう。今日はダンジョンに潜るわけじゃない。視聴者のみんなに探索者シーカーライセンスを取得したことと俺が今まで貯めていた魔物の素材がどれくらいのお金になるのか報告しておこうと思ったのだ。
「色々とな」
「ふーん…まぁいい。スマホから配信したいなら配信アプリのマイページから配信ボタンを押すだけだ」
「なんだそれだけなのか。助かった」
「あぁ、それじゃあ俺はこれから有名人様の配信でも見ようかね」
「…好きにしろ」
俺はそう言って大智との電話を切った。そして言われた通り配信アプリのマイページから配信ボタンを押した。すると俺の顔がスマホに映る。
「お、出来たのか?」
そう思っていると直ぐに視聴者が来てくれた。
『お?なんだ?』
『またダンジョン潜るのか?』
『うん?ここどこだ?』
その数は既に1万人を超えていた。ここまでものの数分だ。
「あぁ、先に言っておくが今日はダンジョンには潜らない」
『そうなのか?』
『えー、まじかよー』
『じゃあこれはなんの配信なんだ?』
その疑問に俺は答える。
「今日は報告をしようと思ってな」
『報告?』
『彼女が出来たとか?』
『まじで?』
「彼女なんて生まれてこの方いたことない」
『あぁ…お前も俺たちの仲間だったのか…』
『すまない…嫌なことを思い出させてしまって…』
「その話題から離れろ!」
俺が少し大きな声を出してしまったせいで周りの視線が突き刺さる。いたたまれない気持ちになるが、直ぐにその視線が好奇の視線だけではないということを理解した。
「え、あれってさ…」
「うん?え?は?まじじゃん」
「なんだなんだ?」
「え?慎也?」
その視線はありえないものでも見たかのような目だった。
「え?な、なんでみんな俺の名前知ってんだ?」
それにみんな俺の名前を知っている。まさかこれが有名人になったってことか?
『そりゃお前こんなに話題になってたらみんな気づくだろww』
『うわマジかよ!俺もそこに居たかった…』
コメントでもそんなことが言われている。
「…これは逃げた方がいいな」
そう小さく呟いて走り出した。後ろで誰かが何かを叫んでいるような声が聞こえたが聞こえない振りをした。
「はぁはぁ…」
俺は息も絶え絶えになりながらようやく人通りの少ない所までやってきた。
『必死すぎww』
『魔法使わないとそんなに足早くないんだなwww』
「う、うるさい。はぁはぁ…とりあえず報告の内応言っておくわ…
『まじか!』
『てことは葉由奈ちゃん説得したのか?』
『あの家の最高権力を説得出来たのか?!』
「あぁ、何とか説得出来たよ。ダンジョンに潜ることが楽しくなってるって言ったら泣きながら今まで私のために我慢してきてくれたお兄ちゃんの楽しみなんて奪えないって言われたよ」
俺は少しだけ目が潤むのを自覚しながらそう言った。
『なんなんだよお前ら…なんでそんなにいいヤツらなんだよ…』
『全国の兄弟がいるヤツらはこの2人を参考にするべきだな』
『お前葉由奈ちゃん悲しませたら承知しないぞ!』
「わかってるよ」
こいつら口は悪いけどなんだかんだいいヤツらなんだよな。そう思うと少しだけ口角が上がった。
「あ、それと報告はそれだけじゃないんだ」
『なに?』
『まだあるのか?』
この時点で同接人数は5万人を超えていた。やっぱりこれはおかしいと思う。
「
『おお!』
『それは楽しみだ』
『どれくらいになるんだろう?』
『3000万とか?』
『もうちょっと少ないんじゃないか?』
「3000万もあったら気絶するわ」
そんなことを言いながら俺は本部に向かった。
一方その頃、ある少女は
「彼女…いないんだ…」
喜びを噛み締めていた。
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「ここが
『やば…』
『でけぇ!』
『なんだこれ鉄?』
俺の目の前には100メートルはあるのではないかと思えるほどの縦に長い円柱の建物がそびえ立っていた。それは鉄のような金属で覆われており多少の衝撃など意に返さないような見た目をしていた。
「…行くか」
俺は覚悟を決めて本部に入った。中は至ってシンプルな作りをしていた。エントランスには数名の職員だと思われる人がいた。そしてその中に中宮さんを見つけた。中宮さんも俺を見つけたのかこちらに歩み寄ってくる。
「こんにちは、高雛さん」
「こんにちは、中宮さん」
俺たちはお互いに挨拶をした。そして俺は切り出す。
「あの…中宮さん」
「なんですか?」
「今配信してるんですけど…切った方がいいですか?」
『やめて中宮さん!』
『俺たちは決して悪いものじゃない!!』
『なんだそれwww』
普通に考えたら配信を切った方がいいだろう。だが俺は視聴者のみんなにはできる限りのことを知っておいて欲しいと思っている。曲がりなりにも俺はこいつらのことを大切に思っているから。
「あぁ、それくらいなら別にいいですよ」
呆気なくそう言われた。
「え?い、いいんですか?」
「はい。本部にはやましいことなどひとつもありませんので」
中宮さんはそう言いきった。か、かっこいい…
『かっけえぇぇぇ!!』
『これが大人の女性か…』
「ありがとうございます」
「いえ、それではライセンスの説明を致しますので上の部屋までご同行お願いします」
そう言われて俺は中宮さんとエレベーターに乗り会議室のような場所に案内された。
「こちらにどうぞ」
そう言われて俺は中宮さんと対面になるように座らされた。
「では説明します」
「は、はい」
「まず
そうなのか?知らなかった。
『へー、そうなんだ』
『え?じゃあ俺今まで
「ライセンスを持っていると普段出来なかったことが出来ます。まず魔物の素材を換金すること、次に魔物の素材で武器を作ること、最後に依頼を受けることが出来ます」
最初の2つはわかる。だが…
「依頼?依頼ってなんのことですか?」
「はい。依頼とは本部から提示された条件を満たすことで報酬が貰える制度のことです」
「そうなんですか…」
ほう、報酬か…
『あ、こいつら報酬って言葉に反応したww』
『現金なヤツめww』
「そしてここからは高雛さんだけの条件となります」
「…」
微かに中宮さんの目が細くなった。ただでさえ切れ長の目なのにそこから細くなってしまったせいでかなりの迫力がある。
「高雛さんが魔物の素材を換金される時は1.5倍の値段で買い取ります。その代わり我々ではどうしようもないようなダンジョンを高雛さんに攻略、封鎖して貰いたいのです」
出来れば葉由奈を悲しませるようなことはしたくない。でも少しの危険を伴わなければ成果は得られない。
「分かりました」
「そしてもうひとつ」
ん?まだあるのか?これ以上はこの前聞いてないぞ。
「これは出来たらでよろしいのですが…オーバーフローが起きた時にはできるだけその制圧に向かって貰いたいの」
「分かりました」
「え?」
「分かりました。オーバーフローが起きた時には俺に起きた場所を送ってください。直ぐに行きます」
「よ、よろしいのですか?」
「はい」
『慎也…』
『お前は…そうだよな…』
『お前どこまで良い奴なんだよ』
もう、俺や葉由奈のような思いをする人たちを増やしてはいけない。もう、母さんや父さんのような人を増やしてはいけない。それだけは絶対に阻止する。
「…分かりました。ありがとうございます」
初めて中宮さんが笑った。その笑顔は今まで見ていた冷たい表情ではなく、その風貌からは予想も出来ないほど可愛らしい笑みだった。
…これがギャップってやつか。惚れちゃいそう。そんなことを思っていると部屋の外から声が聞こえてきた。
「中宮!もういいか?!」
俺はびっくりして声がした方向に目線を向ける。
「すいません…今日高雛さんが来ると知った六柱がどうしても会いたいと言うので…」
「…はい?」
『えぇ…(困惑』
『六柱って…まじかよ…』
『慎也も意味わかってなくて草』
「もういいな?!入るぞ!」
その声はこちらの返事を待たずに勢いよく扉を開けた。そこには6人の男女がいた。
「お前が高雛 慎也か!」
この先程からが聞こえていた声の男は身体中に傷があり、屈強な体つきをしていた。歳は俺よりもだいぶ年上だと思う。
「こら、慎也くんが困ってるでしょ」
そう言って屈強な男をなだめたのは見るからにお姉さんのような風貌の女性だった。髪は栗色で腰ほどまで長く、目は糸目で唇はぷっくりしていた。
「…こんなに若い子があのダンジョンを?すごいなぁ…僕なんかよりもずっと強いだろうな…こんな子がいるなら僕はいらないな…いらないよね…」
そんな卑屈を集約したような言葉を発した男は髪は長くボサボサで目が見えない。それに目には見えないがどんよりとしたオーラのようなものを纏っているような気がする。
「こんなヒョロいのが本当にあのダンジョンから出てきたの?」
強気な口調で鋭い眼光を飛ばしてきた少女は俺と同じくらいの歳だろうか?明るいオレンジ色の髪をしており活発な印象を受ける。
「………」
俺の方をじっと見つめてはいるが何も言わない男は身長が高く目を見開き、常に無表情でどこか気味が悪い。あまり見つめないで欲しい。
「お兄ちゃんは強いの?きっと強いんだよね!」
そんなふうに俺を呼んでくる女の子は見るからに小学生くらいの身長しかなく、口調もそのくらいの女の子を彷彿とさせる。目もくりくりしたまん丸な目で髪の毛はツインテールにしている。この子も六柱なのか?
「え、えっと?」
俺はただ困惑していた。全く状況が飲み込めない。
『おおふ…』
『これはなかなか…』
『癖が強そうな皆さんですねぇ!』
「お前が高雛 慎也だな!」
「は、はい…そうですけど…」
そう話しかけてきたのは身体中に傷のある屈強な男だった。
「俺は
『ワッツ!?』
『いきなりかよ!?』
え、いきなり?そんなバトル漫画みたいなことある?
「い、いきなりですか?」
いや、この質問は愚問だったのかもしれない。なぜならあのダンジョンに自分から潜ったような人達なのだから。あのダンジョンは世間一般では危険すぎるがために封鎖されたダンジョンだ。そんな自らの危険を顧みずに飛び込むということはそれだけ戦いに飢えているのだろう。それを裏付けるように新堂と名乗った男が手合わせを申し込んできた時、全員の目が変わった。それも俺と手合わせするのを楽しみにしているような、そんな目に。
「あぁ、いきなりだろうと関係ない!するのか?しないのか?」
そしてそれは俺も…
「いいですよ。しましょう」
俺は自然と口角が上がるのを自覚しながらそう言った。
『お前もか!』
『ど、どうなるんだ?』
『慎也と六柱…一体どっちが強いんだ?』
【あとがき】
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