説得

俺は今自分のアカウントを見て頭を悩ませていた。登録者数は既にま50万人を突破していて配信の再生数も多いもので400万回を突破していた。


「いやいや…いくらなんでも伸びすぎじゃないか?」


そう。異常な程に伸びていたのだ。伸びること自体はとても嬉しいことだ。俺が茉莉也の配信で感じたあの興奮をみんなに味わってもらえる。だがあまりにも伸びすぎではないだろうか?もはや怖い。


「それに…葉由奈を何とか説得しないとな…」


まず最優先はそれだ。葉由奈を説得して探索者シーカーライセンスを取得しなければ収入を得ることが出来ない。


俺は葉由奈の部屋の前に向かった。そしてノックをして部屋の中に声を掛ける。


「は、葉由奈?今ちょっといいか?」


俺がそう言うと中から声が返ってきた。


「言っておくけどダメだからね」


だが返ってきた声は無情なものだった。


「頼むよ葉由奈。あれを取るだけでお前に楽をさせてやれるんだよ」


葉由奈はこれまでずっと我慢してきた。同世代の女の子が持っているような化粧道具や美容グッズ、オシャレな服や美容院…それら全てを葉由奈は我慢してきた。そして葉由奈はそれらに興味を持っている。俺には言っていないが時々ネットで化粧道具を調べたり服を調べたりしている。葉由奈はもう十分我慢した。これからはわがままを言ってもらいたい。


「だから言ってるでしょ。私は楽な暮らしなんてしなくていいって」

「葉由奈、お前はこれまでずっと我慢してきた。だからもう我慢することないんだぞ?お兄ちゃんがお金を稼ぐから葉由奈は安心して暮らしていいんだ」


これまで苦労させた分、葉由奈は報われないとダメだろう。


「何度も言わせないで」


その声からは確固たる意思を感じた。きっとこれ以上言い続けても葉由奈は首を縦には振ってくれないだろう。だが俺だって諦めたわけじゃない。


「葉由奈、頼むよ。ようやくお金を稼げるようになるんだ。危険だってのは分かってる。それに…探索者シーカーとしてダンジョンに潜るのが楽しいと思っている俺もいるんだ」


そう。何度か配信しながらダンジョンに潜って感じたことがある。ダンジョン攻略が楽しくなっている。これまでも趣味としてダンジョンに潜っていたがこれまでとは比にならないくらいにハマってしまいそうだ。


それはきっとみんなが俺の配信を楽しんでくれているからだ。登録者数も50万人を超えている。もう訳が分からない。こんなにも俺の配信を楽しみにしてくれている人達がいるんだ。その期待に応えたい。


俺がそう言うと葉由奈が部屋から俯きながら出てきた。


「葉由奈…」

「ずるいよ…そんな言い方ずるいよ…っ!お兄ちゃんが楽しいと思ってることをやめさせられるわけ…ないじゃん!お兄ちゃんが今まで色々我慢してきたこと私は知ってる!友達と遊びたいのも我慢して買い物に行ってくれたりご飯を作ってくれたり洗濯をしてくれたり掃除をしてくれたり…全部私のためだって分かってるの!だから…そんなお兄ちゃんの楽しみなんて奪えないよ…」


葉由奈は涙を足元に落としながらそう言った。俺は無言で葉由奈を強く抱きしめた。


「我慢してるのは俺だけじゃない。葉由奈も我慢してる。俺は兄として不甲斐ないんだよ。だからちょっとのわがままを許してくれ。そうすれば俺はお前に…葉由奈に我慢させることを無くしてみせる」

「……これだけは約束して。……無理はしないで」

「あぁ、分かってるよ」


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「あ、高雛です。中宮さん居ますか?」


俺は名刺に書いてあった番号に電話をかけていた。


『はい。中宮です』


スマホから中宮さんの声が聞こえてきた。


「えっと…俺に探索者シーカーライセンスを発行してください」


俺はそう言った。


『おや?もういいのですか?もう少し考えてもよろしいのですよ?』

「…えぇ、いいんです」

『分かりました。それでは発行致しますので2日後に連盟本部に来ていただけますでしょうか?そこでお渡し致しますので』


どうやらライセンスを本部に取りに行かなければならないらしい。


「分かりました」


そうして俺は電話を切った。


「…遂に俺もライセンスを持てるんだな」


そうだ。ついでに魔物の素材も本部に持っていくか。そのまま換金してもらおう。それとドラゴンの素材も持っていこう。武器を作ってもらいたいからな。


「どんな武器にしよう…」


今から想像が膨らむなぁ…名前もつけよう。うんとかっこいい名前にしないとな!


「でも…」


絶対に葉由奈を悲しませるようなことはしない。これは絶対だ。



【あとがき】


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