愚痴と炎上系配信者

「大智…」

「おいおい、どうしたんだよそんな落ち込んで」


初めて配信をした次の日の学校で俺は大智に話しかけていた。


「昨日初めて配信してみたんだよ…」


俺が沈んだ気持ちでそう言うと大智はすぐに聞き返してきた。


「おお!それで?どうだったんだ?」

「全然ダメだったよ…」


沈んだ気持ちを隠すこともせずにそう言った。俺はただ茉莉也って人の配信みたいにただ楽しんで貰いたかっただけなのに…世の中そう甘くないか。


「誰も来なかったのか?」

「いや、数人は来てくれたよ。3人くらい」

「まぁ最初はそれくらいなんじゃないのか?」


大智がそう言ってくるが俺が落ち込んでいる理由は全く違う。


「いや、違うんだ。俺だって3人も来てくれて喜んださ」

「なら何に落ち込んでるんだよ」


不思議そうな顔をして大智が聞いてくる。


「俺の映してる映像が合成だって言われるんだよ」

「合成?」

「あぁ」

「どんな配信したんだよ…」


呆れたように大智がそう言う。


「知らねぇよ…俺は茉莉也を参考にしただけだ」

「茉莉也ちゃんを参考にしてそんな酷いことになるかね。ちょっと昨日の配信見せて見ろよ」

「ん?あぁ」


大智にそう言われて俺はスマホを渡した。俺のスマホに流れる映像を見ていくうちに、大智の表情がみるみる変わっていく。そう、驚愕に染まっていった。そして動画を見終えた大智が一言。


「お前…どこでこんな合成技術を身につけたんだ?」


そんなことをいってきた。


「お前もかよ!だから合成なんてしてないんだって!」


声が少し大きくなる。


「そうは言ってもな…」

「なんだよ…」

「お前がもしこれを本当にやっているんだとしたらそれは本来ありえないことなんだぞ?」


何がありえないことなんだ?


「どういうことだ?」

「いいか?よく聞けよ?お前が行ったって言ってるダンジョンは数年前に危険すぎて封鎖されてるんだ」

「え?」

「しかもお前はそんなダンジョンに丸腰で行ってる。しかもそんなダンジョンの敵を素手で倒しちまってる。それも圧倒的な力で。そりゃあ合成だって疑われても仕方ないだろ」


そんなこと言われても困るんだが…俺は何も特別なことをしている気は無い。いつも潜っているダンジョンにいつも通りに潜っただけだ。


「お前なら分かるだろ?ドローンの使い方すら知らなかった俺が合成なんて出来るわけないって」

「いや…でもなぁ…」


さっきよりは疑いの目は薄くなったがそれでも大智はまだ疑うような目を向けてきている。


「分かった。とりあえず合成じゃないってことにしよう。てことはお前ってめちゃくちゃ強い?」

「そんなことないだろ。あのダンジョンの魔物全部弱いじゃん。俺はいつも通り潜っただけだぞ?」

「そんなわけあるか!調べたらすぐ出てくるんだぞ?!お前の出くわしたロックリザードマン、あれほんとは上級ダンジョンに潜れる探索者シーカー3人くらいでようやく倒せるレベルなんだぞ!」


そんなわけないだろ。そんなレベルの魔物ならたかが高校生の俺が倒せるわけないだろ?


「やっぱりお前の勘違いだろ」

「…もうそれでいいよ」


大智はどこか諦めたようにそう言った。なんなんだよ。


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「はーい!どうも皆さんこんにちはー!夏美なつみです!」


『あ、始まった』

『え?このチャンネルまだやってたの?』

『とっとと辞めちまえ』

『お前らそんなこと言ってるくせに結局見に来てるの草すぎるんだが』


それぞれのコメントが私の動画に流れてくる。どうしてこんなにも否定的なコメントがあるのかって?それは私がいわゆる炎上系配信者だからだ。


炎上系配信者と言うのは迷惑行為などの炎上商法で人気を集める配信者のことだ。


今ではなんだかんだ言ってチャンネル登録者が35万人を超えている。それなりに収益も入ってきている。今も同接人数は1万人を超えている。


「それな!見たくないなら見なきゃいいのに。よっぽど暇なんだね!」


『それなw』

『どうせ引きこもりのおっさんとかだよ。気にしなくていいよ』

『働けニートどもwww』


今日も私は思ってもないことを口に出す。こうすることで人気が出ると分かってしまったから。


最初は些細なことだった。他の配信者とダンジョン内で鉢合わせた時、私が戦っていた魔物を横から倒された。その時にボソッと、「横取りしやがって…」と言ってしまったのだ。そんな些細なことで炎上してしまった。それを見た時、あぁ、こいつらは人の揚げ足をとることでしか自分の承認欲求を満たすことの出来ない性根の腐りきった人間なんだと思ってしまった。


だが私を擁護する人もいた。『いや横取りされたら誰でも嫌だろ』とか『お前ら何でもかんでも叩きすぎ』とか。結果的に私のチャンネル登録者は少し増えていた。それを見た私はこういう人達を味方につけていけばいいのではないかと思った。


そして今の私の配信者スタイルが完成した。でも1つ気づいたことがある。それはこの配信スタイルは長く続けるには適していないと言うことだ。ぶっちゃけるとこのキャラはしんどい。めちゃくちゃしんどい。でも登録者がこんなにも増えてしまった。今更元のキャラに戻したら登録者が減ってしまう。結局私もチャンネル登録者という目に見える数字に固執している自己顕示欲の塊なんだ。そう頭で分かっていても1度優越感を覚えてしまった人の脳みそは元に戻ろうとすることを拒否する。


なら私は自分の汚い部分から目を背ける。それでいい。


「それじゃあ今日は凄いところに潜りたいと思いまーす!」


『凄いところ?』

『お、それは楽しみだな!』

『今日も夏美ちゃんの活躍が見られる!』


コメントが沸き立つ。それだけでも気持ちよくなってしまう。


「今日はねー…なんとあの超危険なダンジョンに挑みたいと思いまーす!」


『え?あの数年前に封鎖されたやつ?』

『まじ?それはさすがにやばくね?』


「あ、そうそう。封鎖されたやつね!」


封鎖と言っても、正確にはメタホールのある場所に立ち入れないように監視カメラや警備員が配置されているのだ。


『でも入れなくね?』

『だよな』


「みんな私がどんな魔法を使えるか覚えてないの?」


私はニヤリと笑いながらそう言った。


『夏美ちゃんの魔法って光魔法だろ?』

『それがどうかしたの?』

『あ、もしかして超眩しい光で警備員の目を焼いて監視カメラも見えなくするとか?』

『過激派紛れ込んでて草』


コメントでみんなが様々な憶測を飛び交わせている。


「もう違うよー」


『えー?じゃあ何?』

『どうするの?』


「光の屈折を利用するの。身体の周りに光のバリアを纏って私に向いている光を全て反射したら、あら不思議。透明人間の出来上がりってね」


光の屈折は水の入ったグラスの中にコインなどを見れてある角度で中を見ると物が見えなくなるというものだ。私はそれを光魔法で私自身を見えなくすることにした。光魔法のバリアを身体中に張り巡らせ、全ての角度から私が見えなくなる。だから透明人間と言っているが透明になっているわけではなく、ただ見えない角度に私がいるというだけだ。これは既に試して見えなくなることは立証済みだ。


『かしこ笑』

『夏道ちゃん俺らより賢くね?』

『お前らそんなことも分かってなかったのかよwところで光の屈折って何?』

『お前も分かってなくて草』


「みんな馬鹿だねー。ちゃんと勉強したの?」


『もっと!もっと罵って!』

『そうだ!これを待ってた!』

『ンギモジィィィイ!!』


たまにみんなが気持ち悪くなることがある。…うん。


「まぁいいや。それより見ててね。『不可視インビジブル』」


私がそう言ってバリアを展開するとコメントが騒がしくなった。


『うおっ!マジで見えん!』

『やば!これなら本当に封鎖ダンジョンも行けるんじゃね?』

『おぉ神よ…どうしてこんなにも人との差をつけたのですか…』

『見えない?つまり…お風呂覗き放題…ってコト?!』


コメントにち○かわが湧いているがそれを華麗にスルー。そして『不可視インビジブル』をドローンにもかけた。するとドローンも見えなくなった。改めて魔法って本当に便利だな。


「それじゃあ今から行くね」


私はそう言って封鎖されたダンジョンに向かった。そして怖いくらいに簡単にメタホールに辿りつけた。


『感じ誰も気づいてなかったww』

『ザルやんけww』


「それじゃあみんな!行くよ!」


封鎖されたダンジョンの中を知っているのは六柱だけ。ましてや配信なんてされてない。それを初めてした私は絶対に話題になる。危険って言っても私には『不可視インビジブル』がある。絶対に見つかるはずがない。戦うなんて馬鹿な真似はしない。ダンジョンの中がどうなっているのかだけ配信しよう。それだけでもかなりの価値がある動画になる。


私は撮れ高にワクワクしながらメタホールに触った。視界が歪むような感覚に陥ったが、次の瞬間私は全く知らない場所に立っていた。そこは石造りになっている。そして初級ダンジョンや中級ダンジョンのように洞窟のような岩が広がっている訳ではなく、綺麗に整えられたかのような内装となっていた。


「ここが封鎖されたダンジョンの中…」


『なんか雰囲気違うな』

『だよな。なんかちょっと高級そうだよな』

『ん?なんか見たことあるような…』

『気のせいだろ。こんなとこ今まで1回も配信されてない』


私はコメントに目を向ける余裕もないほど緊張していた。当たり前だ。このダンジョンは入った探索者シーカーが誰も出て来れないと言われているところなのだから。でも大丈夫。私には『不可視インビジブル』があ…


と、そこで私の目の前に魔物がいた。


『出た!』

『間違えても戦おうなんて思うなよ?』

『逃げろ夏美ちゃん!』

『は?戦えよ』


そこに居たのは普通では考えられない程の大きさの黒色のうさぎだった。具体的な大きさは私の胸の位置程までにある身長に全体的に発達した筋肉。鋭く光った赤色の眼が特徴的だった。


『ブラックラビットじゃん!ヤバいって!』

『え?ブラックピ○ト?』

『誰もそんなこと言ってないw』

『こいつめちゃくちゃ強い!上級ダンジョンに潜る人間が何人かいて倒せるレベルだぞ!』

『やべぇー笑』


コメントが目に入ってこない。目の前にして分かるこの圧倒的なプレッシャー。そして本能が叫んでいる。こんなもの相手にしてはいけないと。きっと気づかれれば呆気なく殺されてしまうだろう。


そして気づく。自分の足が震えてしまっていることに。


ダメだ。この魔物を乗り越えたら早くメタホールを探してダンジョンから出よう。


ダンジョン内にはどこかにメタホールがある。ダンジョン内のメタホールに触ると元の世界に戻れる。


私はバレないように息を殺し、忍び足で魔物の後ろを通る。


ダメだ。こんなことろには長くいられない。


だが私は知らなかった。うさぎという動物が嗅覚に優れていると言うことに。


後ろを通った瞬間、魔物の鼻が少し動いたかと思うと魔物の首が90°回転して私を見据えた。


あ、やばい。



【あとがき】


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