2回目の配信、少女を救う

「はい、じゃあ2回目の配信を始めていきたいと思いまーす」


俺はやる気なくそう言った。始めるとすぐに2人の人が見に来てくれた。


『お、合成の人だ』


だがそんなことを言われてしまった。最初から俺の怒りのボルテージは急上昇中だ。


「合成じゃねぇよ!」


『あ、あの丁寧キャラやめたんだw』


「あ」


コメントを前にしてついカッとなってしまっていつもの調子で話してしまった。


『これ素で出たやつだ笑』


「あー…もういいや。これからはこの配信者スタイルで行くことにするわ」


なんだかめんどくさくなり投げやりにそう言った。


『開き直りやがったw』


「そうだよ!もう開き直り直らねぇとやってらんねぇんだよ!言っとくけどな!合成なんかじゃないからな!」


『合成してる人はみんなそう言う』


「はぁ…まぁもういいや。じゃあ今日も前と同じダンジョンで配信するから」


『はいはいwどうぞw』


もはや誰もが俺の配信を合成だと思い込んでいる。俺はあの興奮をみんなに伝えたいだけなんだけどな…なんだかんだ言って今の同接人数は初配信よりは多い5人まで増えていた。素直に見てくれる人が多くなるのは嬉しいが合成だと疑われたままなのは変わりない。


「じゃあ進んでいくからな」


そう言って石造りの整ったダンジョンの中を歩き出した。なぜだか知らないがこのダンジョンに潜ってから1度も人と接触したことが無い。普通、ダンジョンは入ることなら誰でも出来る。だから同業者がいても何ら不思議ではないのだが…


「助けて!」


そんなことを思っていると、どこからともなく悲鳴が聞こえてきた。


「っ!え?今の悲鳴だよな?」


『え?主の行ってるダンジョンがもし本当に封鎖されたダンジョンなら悲鳴が聞こえてきたってやばくね?その人絶対絶命じゃん』

『マジで悲鳴なの?聞き間違いとかじゃなくて?』

『いや、俺も聞こえたぞ』


僅かにコメントが騒がしくなる。そしてやはり俺以外にも悲鳴が聞こえた人がいたようだ。


「…とりあえず行ってみるか。『影を移動するシャドウ・ムーブ』」


俺がそう言うと暗闇が俺を包み込んだ。


『は?』

『どうなってんだ?慎也が暗くなって消えた?』

「てか『影を移動するシャドウ・ムーブ』ってw厨二病こじらせすぎだろww」


俺はコメントを見る暇もなく移動を始めた。俺の魔法は闇魔法、と俺が勝手に言っている。勝手にと言うのは闇魔法なんて俺以外の人が使っているところを見たことがないからだ。もしかしたら結構珍しいのかもしれない。俺は結構気に入っている。だって闇ってなんかかっこいいじゃん。


そんなことを考えながらも俺は移動する。影のある場所ならどこにでも移動できるのが『影を移動するシャドウ・ムーブ』だ。その間、他者からは姿は見えず移動スピードも普通に走る3倍程の速度で移動できる。地味だが使いやすい魔法だ。


『こんな魔法見たことねぇよw』

『やっぱり合成じゃんw』


声のした方向に数秒間進むとそこには1人の少女がいた。目の前には真っ黒なうさぎ。少女は肩で息をしていて身体中に生々しい傷があり、今にも倒れてしまいそうな程にフラフラだ。対して真っ黒なうさぎ…めんどくさいから真っ黒うさぎと呼ぼう。真っ黒うさぎの身体には傷ひとつついていなかった。


このうさぎは俺のパンチ一撃で倒せてしまうほど弱い的だ。ならきっとこの少女はかなりの初心者、それこそ今日初めてダンジョンに潜ったのかもしれない。


そしてたった今、真っ黒うさぎが少女に向かって飛んだ。


まずい。そう直感した俺は『影を移動する者シャドウ・ムーブ』を解いて別の魔法を放った。


「『暗黒のダークネス・コクーン』!」


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私は魔物に見つかってから何とか凌いでいた。


『やばいやばいやばい!』

『早く逃げて!』

『あー、終わったな』


見つかった瞬間、『不可視インビジブル』を解き、咄嗟にただ魔力を放出して辺りに強烈な光を振りまいた。


そのおかげか魔物は眩しそうに顔を逸らした。その一瞬の隙を突いて私は全力で走り出した。そして叫ぶ。


「助けて!」


『いつもとキャラ違くて草』

『こんなところに誰もいるわけないだろw』

『そんなこと言ってる場合じゃないだろ!』

『誰か居ないの?!』


当然封鎖された危険なダンジョンに誰かがいるわけがない。それでももし誰かがいたのであれば助けてもらえるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら息も絶え絶えになりながら走る。


だが優れた嗅覚を持っているうさぎを振り払うこなど出来なかった。後ろをチラッと確認するとそこには今まさに飛びかかってきている魔物の姿があった。


「キャッ!」


私は何とかそれを転けることで回避した。きっと今の蹴りが私のこめかみに当たっていたら間違いなく頭が無くなっていただろう。


『あっぶねぇ!』

『早く走って!』


息が切れて肩で息をする。足が震える。あぁ、もうダメだ。


私は半場諦めていた。目の前の魔物は今まさに飛びかかって来ている。なぜだか魔物がゆっくりに見える。あぁ、なるほど。事故に遭う直前、時間がゆっくりになると言うが今はそんな感覚に陥っているのだろう。もうここから助かる術なんて残されていない。私は死ぬしかないんだ。


「『暗黒のダークネス・コクーン』!」


どこからともそんな声が聞こえてきたかと思うと目の前の魔物が漆黒の黒で丸く覆われた。それはまるで蚕の繭のようだった。


「…え?」


『え?なにこれ』

『何が起こったんだ?!』

『これやったの夏美ちゃんじゃないよね?』


私は呆然としていた。飛びかかって来ていた魔物は途中で勢いをなくしその場に落下した。そして数秒後、魔物を覆っていた暗闇が無くなった。


「ひっ!」


思わず短い悲鳴を上げてしまった。そこには生命力を座れたかのようにやせ細って死んでいる魔物の姿があった。頬がこけ、肋が皮の上から見える。


「大丈夫か?!」


呆然としていると後ろから声をかけられた。声のする方向に目を向ける。そこにな私と同じくらいの歳の少年が立っていた。


「え、あ、う、うん。」


私はまだ困惑しながらもそう言った。


「そうか。間に合って良かった…」


間に合って良かった?


「もしかしてあなたが助けてくれたの?」

「あぁ。あ!もしかして余計なお世話だったか?!」


目の前の男の子は汗ってあたふたしている。それが面白くてつい小さく笑ってしまう。


「ううん。助かった。ありがとう」


『え?こいつが夏美ちゃん助けたの?』

『そうだとしたらあの魔法なんなんだ?あんなの見たことない』

『新種の魔法とか?』

『どうだろう。それなら日本にほん探索者シーカー連盟が黙ってないと思う』


「なら良かったよ」


『なんだコイツ!俺たちの夏美ちゃんに色目使いやがって!』

『てかここ封鎖されたダンジョンなんだよな?その中にいる魔物を魔法1発で倒したってことは…こいつやばいんじゃね?』

『確かに。めちゃくちゃ強いと思う』


「あなたの名前は?」


私は助けてくれた男の子にそう聞いた。


「俺は高雛たかひな 慎也しんやだ」

「私は赤峰あかみね 夏美なつみ。よろしくね」

「あぁ」


慎也はこの時まだ気づいていなかった。夏美の配信に映ってしまったせいで一瞬にしてこの配信をたくさんの人に拡散されてしまうことを。



【あとがき】


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