第100話 形見

 スピカが怒り狂う。


「昨日は、あなたとザイドのせいで、何人もの人が怪我をしたのよ!私たちは、殺されるところだった!せめてアスタロトを倒す手がかりだけでも教えなさいよ!」


 アーシヤ村長が飄々と答える。


「今やザイドと水龍は、この村の英雄だ。ザイドをほら吹きとは、もう言えない。ザイドと水龍の彫像を建てようと言う話も出ているくらいよ。

 今回の件で村は、水源を得た。氷河期になってから水が不足する一方だった村は、これで生き返る。

 しかも、この水は、村人の傷の回復も早めた奇跡の水。これは何にも替え難い宝物。地面が大きく削れたことで、また金鉱脈も見つかるかもしない。

 私は、感謝してもしきれない。

 グインも闘技場で戦った戦士。この奇跡の一員だ。回復しきるまで村で面倒をみよう。

 だが、アスタロトのことは、すまんな。知らないことは知らない」


 スピカがアーシヤ村長に向かって怒りをぶつける。


「それでは、何も解決しない!骨折り損のくたびれ儲けじゃない!」


 アーシヤ村長が悪びれずに答える。


「ザイドからお前たちを闘技場に出せば金をもらえると言われただけだ。恨むならザイドを恨め。

 それに約束は、守るぞ。村の娘を好きにするがいい。コフィもまた、村の英雄だからな。子作りに励めよ」


 その言葉に、俺は、唖然とする。俺のポケットから女性たちの写真が溢れ出てきた。大勢と子作りするなんて、想像するだけで体が重くなる。隣にいるスピカに顔を合わせる勇気がない。


 アーシヤ村長と話している間も、ハナ、ナジャ、サビーナが手を振っている。村の若い娘たちが恥ずかしそうに俺を見ていた。

 変な汗が滝のように流れる。

 スピカが俺のお尻をぎゅうっとつねる。


 ライラが俺たちをザイドの両親の墓に案内した。ライラが墓前で深く頭を下げる。


「ザイドのおかげで村に水源ができました。あいつは村の英雄になったよ」


 そして、墓石にかけられたゴールドのネックレスを指でなぞりながら、ザイドについて話した。


「あいつも命をかけてやっているんだ。

 水源ができたのは偶然かもしれない。私利私欲も半分以上あるだろうし。

 でも、あいつの心には、この村がある。村のために危険を犯して、頑張っている。

 どうせ村では死ねないと思って、先祖代々の形見のネックレスをここにかけていったんだ」


 スピカが声を荒げる。


「だから、何?私たち、殺されるところだったわよ!」


 ライラが穏やかに答える。


「許してくれとは言えない。でも、あいつが何のために生きているのか、少なくともそれだけは知ってほしかったんだ。 

 もしかしたら、コフィとスピカがザイドの最期を見るかもしれない。骨の一つでも持って来てほしい」


 スピカが言い返す前に俺が間に入る。


「わかったとは言えないけど、心に留めておくよ。

 ライラに一つお願いがあるんだ。闘技場の跡で、ゴルバドの剣を拾った。これを埋めて、ゴルバドの墓を作ってやって欲しい。そして、ここにゴルバドの形見が眠ることを村に伝えてほしいんだ」


 ライラが笑いながら言う。


「コフィは、いい男だね。本当に悪魔なのかい?わかったよ。ゴルバドの子を身籠った娘もいるかもしれないからね」


「ありがとう。ライラ」


「コフィ、お前もこの村に帰ってこいよ。何十人もの村の娘たちがお前と子作りするのを待っているんだ。私は、ザイドだけを待つけどね。ふふふ」


 スピカが怒りを爆発させる。


「コフィ!早く行きましょう!この村は、狂ってるわ!二度と足を踏み入れては、ダメよ!」


 ライラは笑いながら俺たちを見送った。ライラが森の魔女の館と呼ばれている場所への行き方を教えてくれた。母さんの館だ。その途中にスピカの目的地、ヨジェ村もある。

 スピカが得意の重力魔法を発動する。


「コフィ、ヨジェ村のとなりのモトブン村に行くわよ。私のお母さんの実家の様子を見たいの。

 いよいよ、2日後、ヨジェ村で巨人の通過儀礼だわ。もう出発の準備は、いい?」


「わかってるよ。スピカこそ、覚悟は、いいのかよ」


「当たり前でしょ。さぁ、ひとっ飛びでいくわ!」


 俺たちは、空に落ちるように飛んで行った。



後書き



コフィとスピカのハッピーエンドな章でした♪


一章完結までお読み頂き、ありがとうございます!


次章は、スピカの通過儀礼を魔法あり、モンスターあり、策略ありのバトルロワイヤルでお届けします。


2章目もこのタイトルに継続掲載します。

今後ともよろしくお願い致します。

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闇堕ち確定の主人公を恋する幼馴染が救う異世界の話。 山本いちじく @ichijikuyamamoto

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