第99話 宇宙

 水柱が爆発的な勢いで空へと伸びていく。

 その中には巨大な水龍、ナミの姿が見えた。ナミがこんなに大きく!

 スピカも一緒に水柱で打ち上げられている。


「ナミちゃん!立派になったね!かっこいいよ!」


「コフィ、スピカ、会えてよかった。スピカの写真のこと、私ちゃんと黙ってたよ。気が利くでしょ?クフフフ。

 あぁ、力を一気に使いすぎたわ。でもグインは、もう大丈夫。私は、このあと少し長く眠るわね。寂しくないよ。私は、水そのもの」


「ナミちゃん?寝ちゃうの?やっと会えたのに!!」


 水柱がどんどん伸びて、ついには雲を越え、どこまでも伸びていく。地上と宇宙を繋ぐ、細い橋。青い地球が丸く見える。

 スピカが感動している。


「地球って、丸いんだ。青くて綺麗。宇宙が近い。星ってこんなにたくさんあるんだ。私ってなんて小さいんだろう」


 そのままナミと一緒に高く昇った。

 宇宙に空気はないけど、水の中なら俺たちは平気だ。

 俺たちは、ナミの胸ヒレをつかんで、水柱の中で輪になって踊った。

 ナミが俺たちに微笑みながら言った。


「一緒に見れてよかった。この星は、水の星。私は、いつでも近くにいる。他の星が水を求めて、私を呼んでるわ。どんな星かしら、楽しみだわ。

 私が生まれた星にも行ってみたい。

 コフィ、あなたが育ててくれたから、あなたと一緒に遠い宇宙までいける。あなたも自分の可能性の大きさに気づくのよ。クフフフ」


 その圧倒的な水の力の前に、氷の蛇が宇宙空間に吹き飛ばされていった。


 それからナミが水の中に消えていった。水の流れが止まって、地上の重力を思い出したかのように落ち始める。

 俺とスピカは、地上に向けて落下する水柱の中でナミを探した。どこにも見つからない。俺たちは、落下する水柱と一緒に落ちていく。

 濡れた砂の上に着地して、青空を見上げた。

 空から大量の水がリノスの村に降り注ぎ始めた。そして、強い日差しの下、くっきりと美しい虹を作った。


 水の勢いは凄まじく、競技場はあっという間に水に飲み込まれ、跡形もなくなった。


 闘技場の跡地から水が沸き続けている。人間の身体に戻ったグインが倒れていた。顔色が良くなっていたから、きっと大丈夫だろう。あとは、ゴルバドのボロボロになった剣を一本だけ見つけた。

 でも、やっぱりどこを探してもナミがいない。


「ナミ!本当に、どこで眠りについたんだ?」

「ナミちゃん!どこー?本当にしばらく会えないの?」


 そして、村の外れには、湖ができていた。

俺とスピカは、ナミとのひとときの別れを惜しんで、リノス村で覚えた歌を、湖の底で歌って踊った。


「君が去ってから

声は、風に散りさった。悲しみが枯れた木を濡らせ

どうして君と踊れないの

涙は、海を目指し、地を這い、闇に沈むよ


君が戻ってから

声は、流れる小川。喜びが梢のつむじ風

どうしても君と踊るの

涙は、海にたどりつき、雲になり、空にあがるよ」

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