第98話 氷蛇

 ナミとグインが一緒に氷漬けにされて、氷の中に閉じ込められてしまった。氷のなかのナミとグインは、眠ったように動かない。 

 氷の蛇が冷笑しながら俺に向かって豪語する。


「これで邪魔な水龍の子供は、おしまいだ。次は、お前を氷で串刺しにしてやるからね!半殺しにしてアスタロト様のところに連れて行ってやろう」


 せっかく生まれたばかりなのに、こんなことに。俺は、氷の中のナミに声をかける。グインはどうなるんだろう。


「ナミ!グイン!大丈夫なのか?!」


 氷の蛇が尖った氷をどんどん投げつけてくる。


「お前は自分の心配をするだね!もっと角の力を解放しな!」


 ナミを気にかけるの余裕もないのか。

 氷の蛇が放った氷柱が俺に向かって襲い掛かる。


 壁から、床から、尖った氷が突き出てきて、あっという間に血まみれになった。氷による凍傷も酷い。身体が思うように動かない。

 観覧席が無人になり、恐怖を感じた人々が逃げ出してしまった。そして、もうこの闘技場はお祭りどころではない。もうめちゃくちゃだ。

 スピカが闘技場に飛び込んできた。


「コフィ!大丈夫?!みんなを避難させたよ!ザイドには、逃げられた。私も戦う!」


「スピカ、来るな!」


「もう来ちゃったよ!」


 闘技場全体が凍りついてしまっている。俺の指も凍てつき、動かせなくなる。炎より氷の方が魔力を使うはずなのに。圧倒的な強さだ。まったく太刀打ちできない。

 スピカの足元も凍てついて、身動きが取れなくなっている。スピカも水耐性だから、氷に弱い。おまけに氷の蛇には物理攻撃が効かない。

 氷の蛇が嘲笑う。


「相手にならないね。わざわざ私がでなくても、その辺のモンスターで充分だったんじゃないかい?もう少し痛ぶってやろうかねぇ!」


 どんどん吹雪の威力が増して、身体が動かない。

 まずい。共倒れするしかないのか。俺は、焦りと恐怖に包まれた。こんな大規模な魔法に対抗できる術はない。

 ふいに脳裏に母さんの言葉が浮かんだ。


「氷は、水に浮くのよ。湖の水って表面しか凍らないでしょう?」


 なんだって?そんなことが今の状況で役に立つものか。

俺は、更なる力を求める。もっと力を。悪魔でもなんでもいい!力を!

 額の角は、さらに太く長く伸びた。ビリビリと力がみなぎる。


「ふふふ。私の役割は果たしたわね。立派な悪魔になったこと。邪魔な小娘は、ここで殺しておこうかしら!」


 氷の蛇がまた攻撃を開始し、激しい吹雪を巻き起こす。

 スピカが雪に埋もれていく。


「スピカー!!」


 俺は、スピカを守ると決めたんだ。約束したのに。

 その吹雪の中、眩しい光が俺の目に飛び込んできた。


 これは、ナミの光だ。俺は、その光に向かって短く「水」と呼びかけた。

 地面から突如、闘技場全てを飲み込む巨大な水柱が湧き起こった。

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