第41話 身代

「そうだったんだ、ユモ。ごめん。知らなくて」


 ユモが小さくつぶやいた。


「大丈夫。ごめんなさい。私が先に聞いてしまったのに。

 でも、寂しいの分かるよ。みんなが親切で私の居場所を作ってくれているのが、辛いの。ありがたいのに、悲しくて、苦しくなる。甘えて依存しているくせに、施しを素直に受け取り続けるのを躊躇う自分が恩知らずに思えて、弱くてずるい自分が嫌になる」


 俺は、思わず、ユモの震える細い肩を抱きしめた。


「俺も、そうだよ。同じことをずっと思ってた。

 それに、母さんの歌ってくれた童歌やなぞなぞ、色々な記憶を思い出すと辛いんだ。だから、忘れてしまいたいのに、忘れようとするたびに記憶に刻まれてしまう。

 俺ね、思ったんだ。忘れたいんじゃなくて、覚えておきたいんだって。思い出すのが辛いんじゃなくて、思い出すたびに少しずつ鮮やかさがなくなっていくのが辛かったんだ」


 ユモが静かに泣き始めた。どうにも泣き止まない涙を必死に押し止めようとしていた。


「私も、そうだよ....」


 俺も泣きたかった。

 ただただ悲しくて、ただただ辛くて、誰にもその想いを伝えられなかった。ただただ悲しくて、慰めてほしいわけでもなく。ユモのように思い切り泣いてしまえば、少しは楽になるだろうか。

 俺の流したい涙は、ユモが身代わりに流してくれているような気がした。

 ユモが涙をまだ流しながら、まるで涙が止まっているように凛として言った。


「ありがとう、コフィ。少しは楽になったわ。もう大丈夫よ」


 俺は、そのお天気雨のような笑顔をすごく綺麗だと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る