第39話 貝殻

 俺が目を覚ましたとき、ベッドの隣にスピカが眠っていた。

 スピカが魔法も巨人の力も使い果たした時は、回復のために寝息も立てずにぐっすり眠る。


 見知らぬ女性が、明かりを手にして部屋に入ってきた。衣類の入ったバスケットを運んできたみたいだ。ふわりと華やかな花の匂いがする。彼女が少し怯えたように、俺に問いかけた。


「起きたの?」


俺は、慎重に答えた。


「うん、起きた。君は?」


彼女が微笑んで言った。


「初めまして、私は、クララ村長の孫、ユモ。ここは、私の家よ。安心して」


俺は、なんだかそわそわする。村の装束なのか、肌の露出が多くて、ユモの豊満な身体が気になって、目のやりどころに困る。


「ありがとう、俺はコフィ。倒れてしまったみたい...」


 ユモが慣れた手つきで、俺の額の汗を拭った。

 俺は、無防備になってしまう。少しくすぐったいのを我慢する。

 ユモの可愛いらしい大きな瞳が近い。


「うん、すごくうなされてたよ。コフィ、身体中、汗がすごくて、何度もタオルを変えても、すぐにびしょびしょに濡れてしまったの」


 俺は、ユモに身体の隅々まで拭いてもらったことが、恥ずかしくて、落ち着かない。


「ユモがこうして汗を拭いてくれていたの?」


 ユモは、ハッとして、よろけた。

 俺の先の丸い角がユモの貝殻のペンダントに当たって、飾りが欠けてしまった。俺は、欠けた貝殻を拾い上げる。


「ごめん。大切なペンダントだっただろうに」


 ユモは、ペンダントを握りしめて、目を閉じて首を振った。


「気にしないで。大丈夫。探せばよくある貝殻よ。それよりもコフィ、寝汗で風邪をひいてしまうわ。全部着替えた方がいい」


 ユモは、俺に着替えを渡し、着替える間、恥ずかしそうに目を逸らした。


 ネモが素早く濡れた寝巻きを手に取って、「洗ってくる」と短く言って、部屋を出て行った。部屋にユモの柔らかい花の匂いを残して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る