第4話 開眼
もう三年前のことになるか、千里眼が明治の地層から甦って、連日、ワイドショーを賑わせたことがある。
突如として深い歴史の水底から浮かび上がってきたこの古怪に、当時の出雲がまったく取り合わなかったといえば嘘になる。それは彼だけではなく、まわりの学生から年を召した老人まで、みんな一様に信じていないという風をよそおいながら、どこか熱狂的な眼差しでなりゆきを見守っていた。
発端は、とある児童誘拐事件だった。
春分を控えて、あちこちから春の芽吹きを感じられる頃、八幡平杏樹(当時四歳)が、春の霞みのように消え去った。庭先で転んだ拍子に膝小僧をすりむき、見守っていた祖母が救急箱を取りに行った、たった一分もみたない時間だった。
失踪から三時間後、帰宅した夫婦によって警察に通報、その一時間後、附近の消防団と協力して捜索が始まった。
四歳の幼い足で行ける距離は限られている。近隣は住宅街で、子どもが誤って落ちるような側溝や藪にも居ないとなると、誘拐の線が高まっていく。だが、その一方で、身代金を求める連絡はない。
となると、おぞましいことながら、性的目的での誘拐が疑わしくなる。
両親や祖母は勿論のこと、捜査員達にも焦燥が募った。焦る気持ちとは裏腹に夜に日をつぐ決死の捜査も、杏樹ちゃんを見つだすことは叶わなかった。
誘拐は発見が遅れるほど、その被害者の生存率は低い。
一週間という月日は、その残酷な事実を受け入れる猶予時間だった。
三月二十三日、午前二時五十四分。
心身を鉋で削るような膠着状態は、一本の通報によって急変する。
「孫が埋められている」
草木も眠る丑三つ時に、年を召した老婆の声は、しごくハッキリとしていた。
居住まいをただして、静かに坐している様が浮かぶような声色だ。それから孫が埋められているであろう場所を、ゆっくり鮮明に語っていく。内容が内容なだけに、老化から生じる脳疾患による幻覚や錯誤の可能性も充分考えられた。
オペレーターが身元の確認を求めたのも無理はない。
老婆は落ち着きを払った名を告げた。
「八幡平鶴子。八幡宮の八幡。たいらと書いて、平。鳥の鶴に、子どもの子。埋められているのは、私の孫の杏樹、四歳の女の子です」
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