第51話 スターは意外と実力行使派?
「ここだ。連中は裏口から入っていった」
「おあつらえ向きって感じだな」
「そうですね。周囲を探りましょう」
ルカ、レプトの二人を先導して街を駆けたフィス。足を止めた三人の眼前にあるのは、いかにもな様子の薄暗い廃ビルだった。周囲に人の通りがほとんどないこの場所を、誘拐犯達は攫った人を置いておくには最適な場所だと考えたのだろう。フィスの映像解析は迅速かつ的確であり、ほとんど足を止めずにこの場所まで三人を運んだ。目的地に辿り着くと、彼らはそれぞれ件の建物の周りを調査し始める。
「ん、あれは……?」
犯人らの入っていった廃ビルの周囲を探り、裏口を見つけようとしたフィスだったが、その過程で奇遇に顔を合わせる。その奇遇とは、ラムロンだ。彼は廃ビルの内部を探るように、背伸びをしては割れた窓から中が見えないものかと試していた。
「おい、亜人相談事務所の。なんでここにいんだよ?」
「あ? ……フィスじゃねえか。お前こそどうして?」
再会を訝しむフィスとラムロンの声を聴き、同じく廃ビルの周りを探索していたルカとレプトが走り寄ってくる。合流したルカはここにいるはずのない男の顔を見るとフィスと同様に驚き、怪訝の表情で彼を見た。
「こんなタイミングでこんな所にいるなんて……ラムロンさん、一体どうしたんです?」
「知り合いか?」
「ええ。変人ではありますが、信用できるので安心してください」
「ふ~ん……」
ルカとフィスから疑いの目線を受けつつも、信頼はしっかりされている様子のラムロン、レプトは彼を興味深そうに見つめた。対するラムロンはというと、二人の問いに答えを返しつつ、見慣れない顔に注意を向ける。
「白昼堂々人攫いしてる馬鹿がいたから追ってきたんだよ。こん中に入ってったから、なんとかして突っ込もうと思ってたとこだ。……んで、そこのフードの兄さんは誰だ?」
「おい、見て分かんねえのかよ!? この人は前に話したバンドのリーダー、レプトさんだ!!」
「……ああ、そういやなんか言ってたな」
レプトはフィスの紹介を受けて一歩前に進み、フードを外してラムロンに素顔を見せる。その半人半獣の顔を目の当たりにすると、その一点からラムロンは彼の背景を覗き見た。
「アンタがトランスってバンドの……」
「レプトだ。アンタは?」
「亜人相談事務所のラムロンだ」
「亜人相談事務所? ……へぇ、面白いものやってるんだな」
ラムロンの立場を知ったレプトは、興味深そうにそれぞれ色の違う両目を細める。黄色と青の両目に同時に見据えられると、ラムロンはまるで自分の腹の中まで見透かされているのではないかという錯覚に陥る。しかし、レプトの調子は相変わらず軽いものだった。
「ガキの頃に会ってたら世話になってたかもしれねえなぁ。俺もこの顔のせいで色々苦労したからよ」
「そういうことなら、こっちはいつでも歓迎するぜ? 大物の悩みを解決したとなると、デカい宣伝になるかもしれねえしな」
「ほ~ん……じゃあ悪いことしちまったな。俺はもう亜人がどうのとか小さいことで悩むのはやめちまったんだ」
「……そうかい。何はともあれ、相談事でもあったら連絡くれよ」
ラムロンは懐から名刺を取り出すと、レプトに差し出す。レプトは遊び心のないシンプルな名刺に目を滑らせると、小さく笑ってその縁を懐にしまった。
と、そうこうしている時だ。会話に夢中になっていたレプトに、ルカが白い目を向けて声を上げる。
「レプトさん……あなた今、絶賛悩み事の真っ最中ですよね?」
「……あ、そういえばそうだった」
「どうかしたのか?」
悪人を見かけてそのまま追っかけてきたラムロンは、三人がどういう状況にあったのかを知らずに首を傾げる。そんな彼に、フィスはレプトと廃ビルを順に示しながら説明した。
「ここに連れ込まれた人がトランスのメンバーなんだよ。私達は偶然レプトさんと居合わせて、一緒に追跡してきたんだ」
「……あぁ、そういうことね」
「別に悩み事ってほど大したことじゃないんだけどなぁ」
「……いや、友達が誘拐されるって結構大したことじゃねえか?」
常人離れした価値観を持つレプトに、ラムロンは若干引いた視線を送る。
一方、彼らの後ろで一人淡々と廃ビルの様子を探っていたルカは、眉を寄せて状況を好転させる道を見出そうと頭をひねっていた。
「しかし、実際どうしましょうか。この建物に入る経路は表口と裏口の二か所だけ。誘拐犯達は当然両方を押さえているでしょうし……」
現状をまとめたルカの言葉を耳にすると、ラムロンとフィスも打開策を出そうと考え込む。そんな中で、一人なんでもない風なままのレプトが、人差し指を立てて声を上げた。
「俺に考えがある。付き合ってくれねえか?」
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