第41話 アイデアは意外なとこからやってくる
(と、自信満々に言ったはいいものの)
ラムロンはVIPルームを後にし、表フロアのバーで飲み物を口にしていた。解決方法が見えているのなら、こんな無駄なことはせず、すぐに行動を開始しているだろう。しかし、彼はそうしなかった。いや、できなかった。
(クッソマジどうすっかぁ~。あんなこと言っちまった手前、見て見ぬ振りするわけにもいかねえし……)
ラムロンには問題解決の糸口が見えていなかったのだ。行き当たりばったりで他人の運命を決定づけるようなことを言ってしまった彼は、どうにかこうにか手段を見つけようと、バーの店員にやたらめったらに聞き込みをしていた。
「VIPルームってのはいつからあるんだ」
「ザッと五年ほど前からでしょうか。大規模な改築があったんですよ」
「アンタは行ったことあるのか?」
「いえ、あそこに入れるのは選ばれたスタッフとお客様のみですから」
「ふ~ん」
上階に出てきた時点で大した情報は見込め無さそうだ。かといって、VIPルームで聞き込みをしようものなら下の人間に怪しまれる可能性がある。ラムロンは額を指で叩いて焦りをあらわにする。
(チックショ~なんか役立つこと言えやッ!! ああ、マジ……クソ。金使うしかねえか?)
一応、イズミに言った二人を買い取る宣言に関してはできる自信があったものの、それは本当に最終手段だ。彼はそれを避けるべく、なんとかして別の方法を模索する。
と、そんな風にラムロンがあくせく動いていた時だ。
「やあラムロン君」
来店時にも聞いた声が、再びラムロンの背にかかる。振り返ってみれば、そこには妙にツヤツヤしたリーヴがニコニコ笑顔で立っていた。
「リーヴさん。……なんか、大分スッキリしたみたいですね」
「そりゃあもう! いやぁ~やっぱり仕事の疲れや家庭の鬱憤は鞭で打たれないと発散できないね!」
「そ、それは知りませんけども……」
肯定しづらいことを満面の笑みで口にするリーヴだったが、彼はすぐにラムロンの調子が良くないことに気付く。
「何か、仕事で行き詰まっているのかい?」
「あぁ……分かりますか?」
「そりゃあ、何十人も部下を抱えてる訳だからね。若者の機微には聡い自信があるよ」
「ホントにそうなら、前のことは起こらなかったんじゃないスか?」
「はっはっは! こりゃ一本取られたねぇ」
リーヴは脂肪をよく蓄えた体を揺すりながら、ラムロンの隣に座る。
「私に力になれることがあれば、手を貸そうじゃないか。君には大きな恩があるからね」
「……お願いできますか」
「ああ。イルオ君もオルネド君も、君の頼みなら動いてくれるだろうしね」
「それじゃあ、お言葉に甘えて。事務所で話しましょう」
二人は運ばれてきた飲み物に手をつけないまま、席を立った。
※ ※ ※
「そんなことが……許せない」
ラムロンの話を聞いたリーヴは、亜人の人員を抱える社長として激しい怒りに唇を震わせていた。オルネドや他の社員達にも人間と同様の扱いをしていた彼にとっては、どの種族だろうが人間と亜人を区別する必要などないと考えていたのだろう。リーヴの丸みのある顔は怒りで更に膨らんでいるように見えた。
そんな彼とは反し、ひと足先に事実を知っていたラムロンは冷静に話を進めていく。
「俺も喧嘩強い自信はありますが、あんなとこで暴れて一人でなんとか……なんてレベルで人並外れてるわけじゃない。となるとやっぱ、正攻法の警察や法律を頼ることになるんですが」
「それだと、肝心の依頼人の大切な人を守れないね」
「ええ、とても間に合わない。一応最終手段として、金に物を言わせて二人を買い取ることもできるとは思いますが」
「それだと、その二人以外を助けられない……」
提案を出しては否定していく、それを二人は繰り返していた。どのような策を取ったとしても、何かが欠ける選択肢しかない。その事実から逃げるためではあったが、どうしても全てをうまく動かせる作戦は浮かばなかった。
打つ手無しか、とラムロンは大きくため息をつき、体を背もたれに預けた。
「やはりここは一度二人を買って、あの場所自体の問題解決は余裕を持って行うしかなさそうですね。……なにか、別でいい案あったりしますか?」
「すまない、私にできることは……。あまり、いい気分がするものではないね。そんな連中にみすみす金を渡すなんて」
「全くです。しかし、こっちの不都合よりも二人の安全が最重要。これ以外の手段は……」
頭を抱えたラムロンに、リーヴはふと首を傾げてずっと気にかかっていたことを聞く。
「二人を買うって手段だけど、そんなに自信があるのかい? あんな店をやってるくらいだから、結構な額を吹っかけてくることも考えられるけど」
「まあ、そこは大丈夫だと思いますが……」
最重要はイズミ達の安全。それを守るためとはいえ、あんな他人の権利を踏みにじることをどうとも思わない人間に大金を渡すのは納得がいかない。ラムロンはそれを避ける手段が目の前に降って湧いてこないかと、適当に分かってることを口走る。
「ったく、分かってることもVIPルームの人間とフロアの人間の立場が違うってこと、それと悪趣味なあそこが最近できたってことだけだし……時間もねえ」
ラムロンは作戦を立てるのを半ば諦めて、両手を金勘定に使い始める。だが、彼が本格的に計算を始めようとした、その直前のことだ。
「……ラムロン君、今」
「ん、どうかしましたか?」
リーヴが、鳩が豆鉄砲を食らったような呆けた表情で声を上げる。その顔には、驚きと不安と、それ以上の期待があった。
「あのVIPルーム、最近できたって言ったかい?」
「え、ええ。五年ほど前に改築したそうです。ですが……」
「それだぁッ!!」
リーヴの重い体が、ソファから弾かれるようにして飛び上がる。床が少し揺れるほどの勢いで立ち上がった彼の目を見てみれば、そこには確信を前にした希望の光があった。
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