第28話 ナウくない
リコの先導のもと、ラムロン達三人は近所の洋食屋に入り、食事をとっていた。グレイとリコは先の影響もあって各々パスタを頼み、ラムロンは食後のコーヒーを飲んでいる。
「それで、リコ。お前の言う目算ってやつは何のことなんだ」
「ああ、それなんですけどね」
リコはテンポ良く麺の塊を口に運んでは喉の奥にパスタを流し込み、その動作を止めないままレストランの窓外に見える銀行を示す。
「あともう少しで、あそこで強盗が起きるんです」
「……は?」
「ああ、さっき話してた犯罪グループが起こすもので間違いないですよ」
「いや、いやいやいや、俺が気にしてんのはそれじゃなくてよ」
何故、強盗が起きる場所を知っているのか。ラムロンのその言外の問いにはグレイが答える。
「こいつ、例の犯罪グループを調査しようとそん中に入り込んでたらしい」
「えっ……メチャクチャ危ないことしてるじゃねぇか。それに、実行犯には人間が使われてるってことだし、大丈夫なのか?」
「はい! そのくらいの偽装はなんとかなりますよ。幸い私には首から上に亜人としての特徴はありませんから、写真なんかでは軽く誤魔化せるんです。それに、これくらいの危険は乗り越えてかないと、真実をいち早く皆様のもとにお届けできませんからね!」
パスタを頬張ったままで、リコは胸を張る。あからさまに危険な場所に突っ込んでいく彼女の肝っ玉に、ラムロンは舌を巻くのだった。
元より事情を知っていたグレイは、リコの持ってきた情報について軽く説明する。
「今回の情報はその内部にいる奴から聞いたこと、だから間違いないらしい。そんで、自分じゃ止めるのが無理だからってことで、警察の俺を頼ったらしい」
「……待て。じゃあ俺は何なんだ? お前が部下と一緒に待ち構えてりゃあいい話じゃねえか」
ラムロンの意見は至極当然である。警察ならこういう時にこそ動くべきだ。しかし、グレイはその真っ当な物言いに対し、頼りない表情で首を横に振る。
「不確実な情報では警察は動けない。無闇に他の連中に助けを求めるわけにはいかないんだ」
「はぁ!? 私が身を削って得てきた貴重な情報が信じられないってんですか!」
「まあ、六割ってとこか」
「え……どっちが? 信じる方が、六割ですよね? 私の話、信じてくれてますよね、ねぇ?」
大声で反抗の意を露わにしたリコだったが、いやにリアルな数字が出てくると、顔を青ざめさせて確認をとろうとした。だが、グレイはそんな彼女の不安に揺れる声を無視し、実際の事情を語る。
「真面目な話、俺が信じても、人を動かすお偉いさんが信じなきゃ意味がない。警察の上の人間なんて大抵マスコミに良い印象なんて持ってねえんだから、働きかけるだけ無駄だ。だったら、少人数でも速攻で動いた方がいい」
「……そんじゃあ俺が呼ばれたのは、ただの数増しってことか?」
「まあそうだな」
全く悪びれる様子もなく、グレイはラムロンの言葉に頷いた。その図々しい態度を前に、ラムロンはコーヒーを口にして大きくため息をつく。
「人のことを呼べば来る暇人だと思いやがってよぉ……」
「違うのか?」
「バリバリ忙しかったけどなあ~。この間なんて依頼で助けた奴にパーティ誘われちゃってさ~ガハハ。いやぁそういう予定が入らないとも……」
「今日はないんだろ?」
「……まあ、そうだな」
「なら、全く問題ないな」
ラムロンの浅い見栄を蹴飛ばし、グレイは強引に協力を取り付ける。ここまできた時点で是非もなく力を借りるつもりだったのだろうが。
「あ、あの……グレイさん? 私の話って信用ありますよね?」
二人の話に隙ができると、不安に駆られていたリコは震える声でグレイに再び問う。彼女にとって、自分の話の信頼性はよっぽど重要らしい。
「お前はまだそんなことをグチグチ言ってたのか」
「重要なところなんですよ!! 記者である私の言葉が信用ならなかったら終わりじゃないですか!?」
「チッ……まったく、信じてなかったらここに来てないだろ」
「おっ? おほっ、ほほぉ~……まあそうですよね~?」
「……ウザい」
認められていると分かった瞬間、気色の悪い声をあげて体を仰け反らせるリコに、グレイはドン引きの視線を送るのだった。
そんなこんなで不安定な二人の相手をしつつ、グレイはふと、件の銀行の方へと目を向けた。
すると、ちょうど銀行の前では若い男達が四人集まっているのがあった。手にはそれぞれ妙に大きなバッグを持っている。警察としての勘からか、その男達に何かしらの危険を感じ取ったグレイは即座に席を立つ。
「ジャックポットだ」
「どうした?」
「のうのうと出てきやがったぞ。リコ、お前は危ないから後ろで見てろ」
「うぇ……あちょ、待ってください!」
真っ先に駆け出したグレイの後を追い、リコも席から立ち上がる。コーヒーを啜っていて反応が遅れたラムロンは、店員から渡された領収書を手にしながらグレイの背を呼び止める。
「おいテメェ! ここの支払いどうするつもりだ!?」
「お前のゴリオーで頼む!」
「ゴリオーておま……」
古臭い言い方に意識を奪われた瞬間には、既にグレイは店から飛び出していた。彼に続くように、リコも店内を後にする。そんな慌ただしい二人に遅れながらもついて行こうと、ラムロンはコーヒーを一気に飲み干し、領収書と万札を会計に渡して走り出すのだった。
「ごちそーさん! 釣りはいらねぇッ!!」
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