第29話 強盗なんてしても大抵捕まる

 銀行の中は人気が少ない状態だった。平日昼過ぎのこの時間に、わざわざ金を下ろしに来る者も少ないのだろう。銀行員達も緊張感のない様子で、カウンターの奥では小さい声で談笑している者達もいた。

 そんな店内に、四人の男達が入ってくる。グレイが目をつけた、やたらでかいバッグを手に持った者達だ。


「お客様、今回は……ひっ!!?」


 受付に向かってきた男達を目にすると、銀行員が悲鳴を上げる。店内にいる全員がその声に意識を向けて見れば、そこにはバットや鉄パイプなどの鈍器を持った四人の男達が立っていた。バッグの中に隠し持っていたらしい。何より、先頭の男は手に銃を持っている。


「客は全員外に出ろ!! アンタらはここに金を詰めろ、早くッ!!!」


 男は銃を高々と掲げてその存在を印象付け、周囲の一般人達を意のままにしようとした。

 が、そんな強盗犯達の勢いは一瞬にして消え去ることになる。


「銃を捨てろ、手ぇ上げな」

「……あ?」


 四人の背後から声がする。振り向いて確認してみれば、そこにはリボルバーを持ったグレイが立っていた。彼は男達に銃口を向けつつ、空いた左手で警察手帳を示していた。


「警察だ。大人しくしろ」

「けっ、ケケッ、警察ゥッ!?」

「来るの早すぎんだろ!!?」


 悪事を行う以上、警察が捕まえにやってくるのは想像できていたのだろうが、あまりに早い展開に四人はひどく混乱していた。


「最近の警察はすごいんだぜ? どんなとこにでもビューッと駆け付けられる。指示役はそんなことも教えてくれなかったのか?」

「ッ……!」


 グレイの言葉に、男達はあからさまな様子で互いに顔を見合わせて動揺した。だが、リーダー格らしい銃を手に持った一人が、仲間の冷静さを保とうと声を上げる。


「ハッタリだな。本当に銀行強盗で駆けつけたんならもっと人数いるはずだろ。なのにアンタは一人。偶然居合わせたってとこか? 外も囲まれてる様子はねえ。黙ってお仲間呼びに逃げてりゃ良かったものをよお」


 リーダーの言葉に平静を取り戻した強盗達は、それならばとグレイを囲む。


「四対一だ。やっちまえッ!!」


 話が単純化したことにより、強盗達の警察への恐れは薄れ、目の前のグレイを倒せばいいという目的のもとに固まる。

 だが、付け焼き刃の自信は想定外を考えられなくしてしまうものだ。


「一人じゃないぜ」

「え?」


 グレイを囲んでいた男達の外側から、何者かがそう口にする。声のした方へと彼らが目をやると、そこにはラムロンが立っていた。

 が、気付いたところでもう遅い。ラムロンは手近な二人の顔面を順に躊躇なくぶん殴る。耳に重く響く嫌な音が鳴ったかと思うと、強盗の二人は床に倒れ込んだ。


「よし、そっちは……」


 二人をのして顔を上げたラムロンの目の前では、グレイが残りの強盗を投げ飛ばしていた。自分の体を軸にして相手のバランスを崩す投げ技は、あっという間に悪に手を染めた輩の意識を沈める。


「問題なさそうだな」

「当たり前だ。こんな素人に手こずるわけないだろ」


 男達が床に転がって呻き声を上げている中で、二人はなんということもなさそうに一息つくのだった。その後、グレイは銃を向けられた銀行員の方へ向かい、彼女の安否を確認する。


「怪我はありませんか?」

「え、えぇ……ありがとうございます」

「市民を守ることが、我々警察の義務ですから」


 グレイが警察としての役割を全うしている後ろで、ラムロンは倒れている四人の様子をうかがっていた。歳は十代後半くらいに見え、四人とも人間だ。これまで争いごとに無縁だったのか、そのほとんどが先の一撃だけで気を失ってしまっている。


「う、ぐぅ……」


 そんな中、一人意識を残している男が、攻撃を受けた拍子に手放してしまった銃に手を伸ばす。だが、這いつくばるその男と銃の間にラムロンが立った。


「おいたはここまでだな、クソガキ」

「くそッ……」


 銃を取り上げたラムロンは、その弾倉を引き抜いて無力化する。その様を見て完全に諦めたのか、男は拳を力無く床に叩きつけた。


 と、圧倒的なスピード感でひと騒動が終わったこのタイミングで、銀行の自動ドアが開く。飛び込んできたのは息を切らしたフラフラの状態のリコだ。一足どころか大分遅れてきた彼女は、膝に手を置いて熱のこもった息を吐きながら、先に行ってしまった二人に文句をつける。


「お二人共……はっ、早すぎ、ですよ。ラムロンさんなんか、後から来てたのに……も少しレディに気を遣ってください」

「ブン屋は足が命だろーが。こんくらいでゼーゼー言うなよ」

「足で稼ぐ時代じゃ、ありませんから……ふぅ」


 息を整えながら汗の染みたシャツを鬱陶しそうに指でつまむリコは、改めて銀行の中を見渡す。そして、大体のことが終わってしまったことに今更ながら気付き、声を上げた。


「あれっ? もう終わっちゃったんですか?」

「当然だ。俺とラムならこのくらい朝飯前だからな」

「昼飯後でしたけどね」

「やかましい。食後の運動だ」

「そういうことにしときますか」


 適当な言葉のやり取りを終えると、グレイは懐から携帯を取り出す。部下の警察達に連絡を入れるためだろう。


「ちょっと待ってください」

「ん、どうした?」

「いえ、せっかくだからこんな末端の方々を逮捕するだけじゃなくて……」


 リコは人差し指を立てて、ラムロンとグレイに提案する。


「この方達に指示した奴、捕まえちゃいません?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る