第27話 善意につけ込む詐欺は騙す方、欲につけ込む詐欺は騙される方が悪い
「はぐっ……ん」
ラムロンは二人を事務所のソファに座らせると、その向かいで先ほど作ったパスタを口に運ぶ。事務所の中には、薄いニンニクの香りの中に唐辛子が少しずつ顔をのぞかせるような、食欲をそそる匂いが立ち込めていた。
「あ、あの……」
「どうしたんだ? 早く話してくれよ。ズズッ、むぐ……んむ」
「そ、そうですね……はは」
昼時という時間も相まって、リコは食べ物に気を取られてしまい、話を切り出せずにいた。フライパンから直にパスタをすくいあげて啜るラムロンの動きも気になって、どうにも集中できない。
そんな中、堂々とした様子でグレイが言う。
「俺達の分はどこだ?」
「……はっ? 真面目なツラで何言ってんだお前。あるわけねーだろ」
「おいおい、はぁ……用意しといてくれよ」
「……警察様ってな随分図々しいんだな。アポ無しで飯用意してくれると思ってんのかよ」
「気がきかないな。そんなんじゃあモテないぞ、ラム」
「ぶん殴っていいか、おい」
ラムロンはパスタを口に含み、リスのように頬を膨らませながらグレイを睨む。怒っているのだろうが、威圧感はマイナスの値と言っていい。
このままグダグダしていても仕方ないと、リコはもきゅもきゅと口を動かすラムロンに話を切り出す。
「え、えとですね……ラムロンさんは最近、若い人達が犯人の強盗犯罪が多いって話、聞いたことあります?」
「もちろん。テレビだのネットだので三日に一回くらい見るな」
「そうでしたか、なら話が早いです。今回はその件について助力をお願いしたかったんですよ」
「しかし、あれって犯人全員人間じゃなかったか? ウチは亜人相談事務所だぞ」
ある程度まで食事を進めたラムロンは、合間合間に問いを投げる。彼の疑問にはグレイが応じた。
「それが、捕まえた連中が口を揃えて言うことがあってな」
「なんつってんだ?」
「俺達は亜人の首謀者に半ば脅されてやったんだ、だとよ」
「……ほぉ、なるほどね」
残り少ないパスタを惜しむようにゆっくりと食べるラムロンに反し、グレイは犯人達に対する苛立ちを隠せない様子で足を組む。
「あの社会を知らないクソガキども、亜人が関与してるからって情状酌量がつくと思ってナメた態度とってきやがる。他人に唆されたからって責任がなくなるわけじゃないんだぞ」
「なぁるほどね。そりゃドがつくほどウザそうだ」
グレイの話に出たような者を自分が相手にすることを想像し、ラムロンは渋い顔をする。いかにも話が通じなさそうな相手だ。
「首謀者がそういう風に口利きしてるんですよ。亜人の自分に脅されたと言えば、罪が軽くなる……あわよくば無罪にまでなるかも、とかそんな感じに」
リコの補足は三人の中での犯人達の姿形を鮮明にしていく。そうして、全員の意思が一つにまとまるのはそう遠くないことだった。
「「「世の中ナメてんなぁ……!!」」」
首謀者も実働の強盗も、ある程度歳を重ねた三人にとっては不愉快の象徴のような相手だった。三人が負の意思で団結したのは言うまでもない。
ひと足先に冷静になったリコは、最近の事情を踏まえて一連の事件について語る。
「最近は、ウォルという優秀な亜人の議員のおかげで極端に亜人に不利な法律は改正されてます。……が、まだまだ平等とは言いがたい状況です。それをこんな形で悪用するなんて……」
「首謀者が本当に亜人かどうかも疑わしい。クズが騙っているだけの可能性もあるからな」
「その可能性は高いでしょうね」
リコとグレイは犯人達への憎悪を滲ませながら仮定を重ねていく。そんな時、そういえばとラムロンは据え置きになっていた疑問を口にする。
「そんで、結局はどうして俺のとこに来たんだ? 流石に、その情報だけで犯人を特定するってのは無理だぜ」
「その点は大丈夫です。というより、そこに目算がついたから、ここに来たんです」
「ほう? 聞かせてもらおうじゃねえか」
ちょうどパスタを食べ終えたラムロンは、前のめりになってリコに問う。しかし、自信満々な表情をする彼女から返ってきたのは、手がかりを示す言葉ではなかった。
ぐぅ~……
目の前で香り立つパスタが頬張られる様を見せつけられてきたリコは、空腹を耐えることができなかった。彼女は思わず鳴らしてしまった細いお腹を抱え、顔を赤らめてささやかな願いを口にするのだった。
「そ、その前に腹ごしらえしても、いいですか?」
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