腹黒ブン屋とトゲトゲキャット〜堅物警察を添えて〜

第26話 ブン屋って響きはまあまあカッコいい

「ふんふんふ~ん……よし」


 ある日の昼頃、ラムロンは亜人相談事務所の私生活スペースにて、料理を作っていた。料理と言っても男の一人暮らし、自分を満足させるだけのものを適当に作るだけだ。

 鼻歌混じりに彼がかき混ぜるのは、予め火を入れたニンニクとベーコンに茹でたパスタを合わせたものだ。味を見つつ塩胡椒をつまみ、一本口に含んでみれば、既にそこにはだらけた私生活の男を満足させるには十分な、シンプルな一品が出来上がっている。


「うみぃ~。いただきゃす」


 調理が完了すると、ラムロンはパスタを皿に盛り付けるなどということはせず、箸を取り出してフライパンからそのまま口にかき込もうとした。

 が、一番美味しい最初の一口をラムロンが口に含もうとしたその時だ。事務所のインターホンが鳴り響く。


「あぁん? チッ、こんな時に誰だっつの……」


 ラムロンは一人暮らしの楽しみを邪魔されたことで眉間にシワを寄せながら、鍋敷きとフライパンを持って玄関にまで向かう。


「はい、こちら亜人相談事務所」

「久しぶりだな、ラム」


 パスタをお預けにされた怒りを抑えつつ開いた扉の先には、グレイが立っていた。以前、ドグとフォクシーの件でラムロンが世話になり、その罪を見逃してくれた警察である。


「あ~…………」


 来客がまさかの警察であるということを知ると、ラムロンの中の怒りは不安に移り変わっていく。そのまま、彼は言葉に詰まってるかのような声をあげて隙をはかると、一切の前兆なく扉を閉めようとした。


「ちょ、おいッ!」


 だが、流石は警察。グレイは優秀な反射神経によって高速で閉まっていく扉に自分の足を挟み込むと、来客に対して無礼なラムロンの行為を責める。


「お前、なに門前払いしようとしてんだ!?」

「いや……だってお前警察だし、何かまずいことでもあったのかと」

「だったらなおさら通せッ! 捜査に抵抗すると罪が重くなるんだぞ。というか、やましいことでもあるのか?」

「……ま多少は」

「あるのかよ。……まあ、そこについては深掘りしないでやる」


 あまりにも無責任な言葉に、グレイは気の抜けたため息をつく。その様子に敵意や警戒を一切感じなかったラムロンは、どうやら自分を逮捕しに来たわけでは無いらしいと判断し、扉を改めて開いた。


「はぁ……んで、天下の警察様がウチに何の用だ? こっちは今から飯食うところだったんだがよぉ」

「ああ、ちょっと協力して欲しいことがあってな」


 言いながら、グレイは一歩脇に退く。

 彼の背後には、ブラウンの髪の小綺麗なシャツを着た女性が立っていた。腰の辺りには髪と同じ茶色の小さな翼が生えている。亜人で間違いないだろう。

 彼女はラムロンと顔を合わせるとすぐに頭を下げ、元気な声で挨拶をした。


「ども! 新聞記者のリコです!」

「ブン屋? 意外だな。警察とは仲悪そうなもんだが……」


 基本的にはマスコミと警察は仲良くない。そんな偏見からのラムロンの言葉に対し、リコは首をブンブンと縦に振って隣のグレイを睨む。


「ええ、とっても仲悪いですよ! こっちからは色々情報を提供してあげてるのに、事件の取材は自由にさせてくれないんですから!」

「情報規制だの何だの色々ルールあるんだよアホ。ったく、ギャーギャーやかましい女だろ?」

「ギャーギャーやかましい女だろ……ケッ、カッコいいと思ってんすかねぇ?」

「……こいつ」


 リコはわざとらしく低い声でグレイの真似をする。この世で鬱陶しい行為ベストテンに入るであろう行為に対し、グレイはこめかみに青筋を立てながらも余計な言葉は我慢するのだった。


「警察と記者……か。まあとりあえず入ってくれ。話はそこで聞く」


 二人に話させていると埒が明かなそうだと判断したラムロンは、さっさと彼らを事務所に迎え入れるのだった。

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