第25話 逆風吹き荒ぶ恋路は皆の憧れ
「すごい綺麗な字の手紙ね。それに細かいところまで丁寧で」
「こっちはなんていうか……雑としか言いようがないな。俺でももう少し綺麗に書けるぞ」
リザとハルは、ラムロンが差し出した手紙を読んでそれぞれの感想を口にする。その手紙というのはもちろんドグとフォクシーが出したものだ。別に二人は気にしないだろうという考えで、ラムロンは三人にそれを読ませていた。
「それで、これがどうしたんだ?」
既に二通の手紙を読み終えていたジュンが首を傾げて問う。リザとハルも同じように、手に持った手紙とラムロンに好奇心を向けていた。
「それ書いた奴ら、亜人なんだ。別々のな。それに、今度結婚する」
「「「えぇッ、結婚ッ!?」」」
「子供もいる」
「「「子供もッ!!?」」」
ラムロンが手紙を指差して口にした言葉を聞くと、三人は目を丸くして同時に驚きの声を上げる。これには男子二人より大人ぶっていたリザも、手紙を二度見して驚愕の声を漏らす。
「え、それってよくないことなんじゃ……」
「ああ、一応違法だな。けど、あいつらはそこを踏み越えたんだ。別々に別れて行く道もあったけど、一緒に行くことを選んだんだ」
種族の違い、生まれ持った性質の違い。そんな諸々を乗り越えて結婚までしようとしている二人のことを、ラムロンはジュンに目を向けながら語る。
「違いがあろうがなんだろうが、仲良くやっていけるもんなんだ。俺だって、亜人だから離れようなんて思ったダチは一人もいない」
ラムロンが不安に身を小さくしていたジュンの肩に手を置く。
「だから、お前達も同じだ。俺が保証してやる。な? お前達はずっと一緒にいられる。お前達が本気でそう望めばな」
ジュンの視線は、つられるように二通の手紙に向かっていた。リザとハルの手に収まるそれを書いた者達も、自分達と同じような悩みを持っていたはず。彼らに乗り越えられたなら、自分も同じようにできるはずだ。湧いてきた勇気は、ジュンの表情に笑顔を取り戻させる。
「そっか……そう、だよな!」
ジュンはラムロンを振り返り、その満面の笑みを向けた。仕事がアフターケアまで上手くいったことを確認すると、ラムロンはホッと息をつき、肩の力を抜く。
「……で、ラムロンさん。ちょっと聞きてえことがあるんだけどよ」
「ん? どうした」
話がひと段落ついたかと思ったその時、ジュンがラムロンの腕を引っ張る。彼はそのまま、リザとハルから少し距離を置いたところまでラムロンを連れてくると、詰まり詰まりの囁き声で質問を投げかける。
「あの手紙書いた人達って、その、別々の亜人なんだよな?」
「ああ、そうだけど」
「じゃ、じゃあその……アレ! に、人間と亜人って結婚できるかな」
「まあ大変じゃああるだろうけど、不可能ではないな」
「そ、そっか。ふ~ん……」
ラムロンから答えを得ると、ジュンはチラッと少し離れたところにいるリザに目を向けた。彼の問いとその視線の流れを目の当たりにしたラムロンは、すぐにその幼い好意に気づく。
(そういうことね。そりゃ、ちょっとグレたくもなるわな)
リザとハルは同じ亜人だ。そういう意味でまだジュンは不利ではあるものの、可能性がないわけではない。それを知ることのできたジュンは、不器用な心の内にある想いに、少しだけ向き合い始めるのだった。
と、そうこうしている内に陽は落ちていた。夜の暗い闇の中に、ポツポツと白い街灯が明滅している。時間も頃合いだと判断したラムロンは、パチンと手を叩いて子供達の注意を集める。
「よし。じゃあお前らには嫌なことも言っちまったし、お詫びにラーメン奢ってやるよ」
「「本当か!?」」
「ラッキー。ご馳走になるわね」
「あ? リザは自分で払えよ。つか依頼料払え」
「あ……あぁん!? なんで私だけハブこうとしてんのよ!」
当然のように奢られる気でいたリザは、突き放されると顔を真っ赤にして声を荒げる。それを見たハルとジュンは腹を抱えて笑い声を出し、ラムロンはニヤリと口角をつりあげた。
「冗談だよ。なぁに本気にしてんだ?」
「こんの……アンタの財布破壊してやる。ハルもジュンも、限界まで食べるわよ!」
「へへ、じゃあ大食い勝負だな」
「ジュン、お前またガキみたいなこと言ってんじゃ……」
「ほんじゃあお前が最下位な」
「やってやろうじゃねえか!!」
「頑張れよ? 俺の財布は国家予算レベルだからな」
「言うじゃない。アンタ達、ちょっとやそっとで音ェ上げんじゃないわよッ!!」
「「おおーッ!!」」
夜闇にふさわしくない色めき立った声を上げながら、四人は公園を後にするのだった。
※ ※ ※
ちなみに、大食い勝負はハルとジュンが同列で二杯、リザが五杯でリザの圧勝だった。
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