第24話 やっぱり女子には勝てないよね

「で、仲直りは終わったわけ?」


 二人の前に現れて開口一番、リザは無遠慮に問いを投げる。彼女に情けないところを見せまいと、ジュンはぐしゃぐしゃの涙を拭って頬を赤くするが、もう遅い。それだけでも恥ずかしさと情けなさで心が折れそうになりながら、ジュンはボソボソと口を動かす。


「それは……その、えと」

「あーもうハッキリしないわね。何よ」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ、リザ。ジュンはだなぁ」

「アンタは黙ってて」


 ジュンを庇おうとしたハルの言葉を、リザがピシャリと切って落とす。そして、彼女はその勢いのままに声を上げた。


「ジュン!」

「は、はい!」

「さっき言ったように、私もこの中で一人だけ女だから。自分だけ人間で~なんてベソかいてるのは私に失礼だと思ってちょうだい! 種族の違いも性別の違いも、要は体のつくりがちょっと違うだけなの。分かった!?」

「ご、ごめん……」


 言われてみればその通りか、とジュンは身を小さくする。直前のハルとの衝突がなければ屁理屈を捏ねていたところだろう。ジュンは小さくリザに頭を下げた。


「ハル!」


 続けて、リザは再び声を張り上げる。


「こ、今度は俺かよ?」

「アンタはもっとハッキリとモノを言いなさいよ! なんか大人ぶって回り道する言い回しばっかだから今回みたいなことになったんでしょうが!」

「お、俺が? なん……わ、悪かったよ」


 納得がいかないと主張しようとしたその瞬間、リザが鬼の形相になったのを見ると、ハルは即座に軌道修正する。

 そんなこんなで、二人から謝罪を引き出したリザ。彼女は次に、よくある喧嘩両成敗の形を取ろうと二人に声をかける。


「それじゃ、お互いに謝って!」

「え、いや……う~ん、だってなぁ」

「それは……どっちかってと、こいつの方が」


 ハルとジュンは二人そろってゴネ始める。どうやら、女子の前ではプライドを最低限保っていたいらしい。もうそんなものはない気もするが、互いに頭を下げることを惨めったらしく避けようとする。

 だが、直後にリザの雷が飛んだ。


「謝って!!! ちゃんと!!!」


 リザの怒髪天をつくかのような激しい怒りに、ハルとジュンは体を大きく震わせると、それぞれに対して小さく頭を下げた。


「ご、ごめん……」

「こっちこそ、悪かった」


 渋々といった様子ではあったが、二人が頭のつむじを突き合わせたのを見ると、リザは満足そうに腕を組んで頷いた。彼女のその大仰な身振りに、直前まで頭を下げていた二人は思わず笑い出す。 


「な、何よ。もう……ふふ」


 声を荒げようとしたリザだったが、途中から自分でもおかしくなって笑い始める。夕焼けの温かい光が包み込む公園には、三人の子供の無邪気な笑い声が響くのだった。


 と、そうして三人の話がひと段落ついた時だ。この場には似つかわしくない、子供達より一回りは年上の男、ラムロンがひょいっとベンチの陰から現れる。


「お疲れ様っと。これで一件落着か?」


 タイミングがいいのを見ると、区切りを待っていたのは明らかだ。リザはそんな彼を笑顔で迎える。


「あっ、ラムロンさん。ありがとう、今回は助かったわ」


 依頼という形でお願い事をしたリザは、ラムロンに感謝の言葉を伝えた。

 しかし、そんな二人の後ろでハルとジュンは顔を見合わせて眉を寄せていた。原因は、リザと仲睦まじく話しているラムロンだ。ハルとジュンは頷き合って互いの意思を確認すると、すぐにリザとラムロンの間に割って入る。


「え、何? どうかした?」


 まるでリザを守るかのようにラムロンの前に立ちはだかった二人は、毅然とした態度で背中の彼女に語る。


「リザ、助けられたのかは知らないけど、あんまこいつに心を許しすぎるなよ」

「へ、なんで?」

「わざわざ俺達の傷を抉ろうとしてきやがったんだ。マジで許せねえ」


 ハルとジュンは小動物のような怒りをラムロンに向ける。それもそのはず、男子二人にとって彼は急に現れて嫌なことを言ってきた大人程度の認識だ。そんな二人の健気な様子を見たラムロンは、思わずプッと吹き出してしまう。


「な、何がおかしいんだッ!」

「ヘラヘラしてんじゃねえよッ!」


 精一杯の圧を込めてハルとジュンは吠えた。しかし、なんとも哀れなことに、奮闘する男子二人の間をリザがするりと通り抜ける。守ろうとしたリザが相手側についたのを見ると、ハルとジュンは顎が外れんばかりに唖然とした。そんな二人に、リザはやれやれと肩をすくめて説明する。


「ラムロンさんがアンタ達を煽ったのは、私がお願いしたからよ」

「え……えぇッ!?」

「どうしてだよ!!?」

「ん~。だってアンタ達、私が何話しても聞いてくれないし。それに、二人よりもよっぽどラムロンさんの方が頼りになるもん」

「「そ、そんなぁ……」」


 同時に振られたハルとジュンは、同じように肩をガックリと落とす。そんな男子二人を可哀想に感じたのか、ラムロンは手ですまないとサインをして謝る。


「わりぃな。嫌なこと言っちまってよ」

「まあ、はい……なんとなくではありますけど、そんな気はしてましたよ」


 意外にすんなり事情を飲み込んだのはハルだった。


「あれ、バレてたか?」

「なんか話が急だったんで、なんとなく」


 ラムロンのしたことを苦笑して流すハル。彼は言葉遣いまで丁寧なものに戻して、既にラムロンに対する警戒心を解いていた。

 そんなハルに合わせてか、ジュンも途切れ途切れの言葉で自分の勘違いを繕う。


「まっ、まあ、俺も分かってたけどな」

「そうか? じゃ、そういうことにしといてやるよ」

「お、おう……うん」


 ジュンはラムロンの言葉にぎこちなく返す。彼の声色には、初対面の気まずさなどに混じって、薄い不安があった。自分の背を押した要因を再び前にして、先ほどまで感じていた不安を思い出したのだろうか。ラムロンはジュンのそれを目ざとく見つけ、問いかける。


「まだ不安か?」

「えっ……い、いやそんなことは」

「ん~」


 話がひと段落つきはしたものの、ジュンの不安は完全に抜け切ってはいなかった。そんな彼を見ている中で、ふと、ラムロンはあることを思い出す。


(そういや、ちょっとした小道具持ってたな)

「よぉ、お前ら。面白いもん見せてやるよ」


 並んで首を傾げる三人に、ラムロンは二枚の手紙を取り出した。

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