第17話エロ本と汚職、バレた時の焦りはほぼ同じ
ラムロンがドヤ顔をした後で赤っ恥をかいた、そのしばらく後。建設現場からほど近いオフィスにて、イルオは自分のデスクを漁っていた。人気のない暗がりに覆われたオフィスの中では、紙束が床を打つ音だけが響いていた。
「まさか、こんなことになるとは……」
焦りのせいか、手が震えて作業が進まないのに苛立ちながらも、イルオは自分の目的のために動き続けた。
しかし、その手を止めざるを得ない状況がやってくる。
「母親にエロ本隠してるのがバレたみたいな慌てようじゃねえか、どうしたんだよ」
「あなたは……」
声がした方向へイルオが振り返ると、そこにはラムロンが立っていた。どうやってこの場を特定したのか、なぜ彼が来たのか、そんな疑問が降って湧いてきたが、イルオはあくまでも平静を装う。
「ここへ来られたということは、立てこもりの方は解決したのですか?」
「あいつらが今回の件を起こしたのは、アンタのやってることが原因だったんだな」
「……どういうことでしょう」
「とぼけちゃって」
ラムロンはイルオの建前だけの問いをガン無視し、正面から問う。
「最初から妙だと思ってたぜ。プロジェクトどうこう言ってはいたが、明らかに警察が必要な事件を俺みたいな奴に解決させようとするなんてよ。警察の手が入っちゃあ、都合が悪かったんだよな」
「…………」
「それに、現場とその周囲に全然人がいなかったのもそうだ。多分、アンタをはじめとした甘い汁吸ってる奴らが、みんなして悪いことがバレちゃあまずいって意識を持って、人払いしてたんだよな。その方が内々で処理がしやすい。……まあ、社長が入ってくるのは予想外だったか?」
ラムロンの言葉にイルオは否定を返さない。それだけではなく、彼は事務所に相談をしにきた哀れな依頼者、という皮を被ることも諦めた。その彼が次にとった行動は、懐から銃を取り出し、それをラムロンへ向けるということ。
「確かに人間の銃器の所有は認められてる。だが、同じ人間に向けたら違法になるってわかってるよな。それに、そんなもん出すってことはよ。自分のやったことを認めるってことだぜ。いいのか?」
銃口を向けられながら、それでもラムロンは冷静に言葉を紡ぐ。彼の問いに、イルオは静かに首を縦に振った。
「最早言い訳しても遅いのでしょう。なら、私がどうしようとあなたの考えは変わらないはず。安心してください、ほとんど撃つつもりはありませんから。ですが、約束していただきたい。私のしたことを……隠し通してくれませんか」
「……そいつは依頼ってことでいいのか?」
「どう取っていただいても構いません。ですが……私達には金が必要なんです」
銃を持つイルオの手は震えていた。持ち慣れていないのだろう。いくら違法ではないとはいえ、銃を持ち慣れている会社員はそういないはずだ。
「依頼、ねえ。黙ってるだけでいいのか? 報酬は?」
「……当面は無理です。余裕が出てくるまでは、見逃していただきたい」
「ふ~ん、なるほどね」
銃を向けられている以上、ラムロンはイルオの言葉に逆らえない。ならば、少なくともこの場はしのぎ切れるはず。
と、イルオはこう考えていた。だが、その願望混じりの予想は目の前の男の腹立つ笑顔によって打ち砕かれる。
「わり、もう話しちった」
「なっ……」
他人を小馬鹿にするような舐めた笑顔をラムロンが浮かべたその次の瞬間だ。彼の背後に大きな人影が現れる。獣の亜人、オルネドだ。
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