第15話 死んだ金生きた金って、え、金って生き物じゃないよな
「ちょ、ラムロンさん! こんな大金、一体どこから手に入れたんですか!?」
「いや、普通にポケットマネーですが」
500万弊という大金を立てこもり犯にポンと渡したラムロン。彼はその大金の出所が単なる貯蓄であると言うが、イルオの目には彼がそんな大金を稼げるような男には映っていなかった。というより、もっと重要なことがある。
「ちょっまっ……ええ! っていうか、いいんですか!? こういうの、そのまま渡しちゃうってなんかアレな気がするんですけど……」
「別にいいんじゃないすか? これで丸く収まりますし」
「いやだって、相手は人質をとって立てこもった犯罪者ですよ! 普通お金を渡すんじゃなくて、ビシッと懲らしめて解決、とかじゃないんですか!?」
「別に俺は困らないしなぁ。殴り合うのは疲れるし危ないし」
「え、えぇ……」
自身の発言の倫理観の欠如を一切認識していないラムロンは、その場の注目を集めているというのに未だ耳の穴に指を突っ込んでは顔をしかめている。やはりこんな男が500万をポンと渡せるような人間には見えない。イルオは自分の目がおかしいのかとまぶたを擦る。
と、そんな時だ。
「……悪いが、こいつは受け取れねえ」
オルネドはそう言うと、ラムロンに札束を投げ返す。反射的に受け止めはしたものの、ラムロンは自分の手元に金が返ってきたのを不自然に思い、首を傾げる。
「どうした? 別に偽札とかじゃねえぞ」
「そんな心配はしてねえよ。俺は、俺達を働かせているこいつらから金をもらわなきゃ気が済まねえんだ。ポッと出のアンタの金が欲しいんじゃねえ」
オルネドは人質を離さないようにしつつ、ラムロンの後ろにいるイルオを示した。何某かの因縁をそこに感じたラムロンは、それをわざと煽るように言葉を選ぶ。
「金なんて、ケツ拭く時も飯買う時もコンドーム買う時も同じだろうよ。金に生きてる死んでるもない。何を勘違いしてんだ?」
「……アンタには、関係ねえ」
この条件を受けると、ラムロンにできることは大きく狭まる。彼と、そして後ろに立っていたイルオは、どうしたものかと次の手を探す。
だが、彼らが打開の案を考えつくよりも前に状況が動く。作りかけで防音性の低い壁の奥から、人の走る音が聞こえてきたのだ。
「イルオ君、それに……オルネド君! 一体何が……」
足音の持ち主、小太りで五十歳くらいに見える人間の男が部屋に入ってくる。
「リーヴ社長ッ!? どうしてここに……?」
イルオは男を社長と呼び、彼の登場に面食らっているようだ。事を内密に済ませたかった彼としては不都合な事だろう。この事件のことをどこからか聞きつけて来たのだろうか。
ただ、そんなイルオの焦りをオルネドが解するわけもない。彼はリーヴにも見えるように自分の爪を持ち上げると、再び声を荒げた。
「とにかく500万だ! アンタらが持ってこい!!」
「くっ……とりあえず警察を」
「待ってください」
至極真っ当に警察を呼ぼうとしたリーヴだったが、ラムロンがそれを止める。
「ここは、俺に任せてください」
そう言うと、彼は懐から拳銃を取り出す。黒塗りのそれを目にしたこの場の者達には、一瞬にして張り詰めた緊張が走った。ラムロンは銃口をオルネドに向け、話を続ける。
「人間の銃の携行は法律で認められている。こうならないとでも思ったのか?」
「……撃つつもりなら、こいつを殺すぞ」
「別にいいぜ。そいつはお前と同じ亜人だ。人間じゃねえし守る価値ねえよ。誤射してそいつに当たっちまうかもしれねえが、お前とも仲悪いみたいだし、別にいいよな? せめて人間様を人質に取ってりゃあ、マシだったのかもしれねえけどよ」
「ぐっ、ゲス野郎が……!」
血の通っていない言葉を吐くラムロンに、オルネドは危機感を募らせ、人質を拘束する腕に力を込める。今抱えている人質すら意味がないのなら、このままただ撃たれるだけだ。
「やめてください」
だが、オルネドが次の行動を選択するより前に、リーヴが動く。彼はラムロンの蛮行を阻止しようと、彼の背に説得の言葉を投げかけた。
「社内の問題は、社長であるこの私が対応します。あなたのような部外者が出る幕ではありません」
「彼は犯罪者ですよ、それに亜人だ。殺したところで大した問題にはなりません。安心してくださいよ、こんなチンケな問題をマスコミに話したりはしませんから」
「そういう問題ではありませんよ。彼らはウチの社員です。私にとってはそれが一番。人間か亜人かなんてのは重要じゃない」
「……下らないな」
社長の制止の言葉を一言で一蹴すると、ラムロンは銃口を改めてオルネドに向けた。そして、ゆっくりと引き金に指をかける。
その瞬間のことだ。オルネド、そして人質の二人が、その場を飛び出してラムロンへ飛びかかった。
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