第11話 お金より健康、お金より子供の心配!
「ん、んぅ……」
「起こしてしまいましたか」
ラムロンの目の前で、リザの母親が目を覚ます。熱にやられているせいか、彼女は唸り声を上げながら上体を起こそうとした。
「そのままでいてください。無理はしないほうがいい」
「えっと、あなたは? それに、娘はどこへ……」
「少し外に出ています。あなたの薬を探しにね。私は、娘さんがあなたの薬を買いに出ている所に偶然会った者です。たまたま時間と手段があったものですから、あの子とあなたを助けることにしました」
ラムロンは適当な言葉で自分とリザの状況を説明した。
彼の言葉を受けたリザの母親は、熱っぽく赤らんでいた表情に不安を浮かばせる。その額に浮かぶ汗は、体の発熱からくるものだけではなさそうだった。彼女は仰向けに横たわったまま、頭を抱える。
「お金を、取るのですか。どのくらいになります?」
「安心してください。手間賃なんか頂きませんよ。薬の方も、俺が立て替えておきます」
自分の体よりまず金の心配をし始めたリザの母親。一見的外れなように見える文脈だったが、ラムロンはそれが最初から想像できていたかのように、スラスラと語る。
「亜人の薬は高いから、買いたくなかったんでしょう? だからここまで放置してしまった。その気になれば、自分で外に出て買いに行けたというのに」
「……ご迷惑をおかけしました。それに、あの子にも心配を」
「ええ、それは本当にそうですね。あなたには反省していただかないと」
ラムロンは病床にあるリザの母親を庇うことはしなかった。彼はベッドの隣の棚に置かれたタオルや、清潔に整えられている毛布を目に映す。
「リザは一人でよくやってましたよ。あなたの世話もそう。薬を買うのだって……あなたが少し説明してれば一人でなんとかしてたと思います。病気を放置してたのにこれくらいで済んでるのは、あいつが看病を頑張ってたからです」
「…………」
ラムロンは膝をついてリザの母親と目線を合わせ、告げる。
「お子さんのためにも、無茶はしないでください。いつも俺達みたいなお人好しが近くにいるとは限りませんからね」
「……何から何まで、本当にすみません」
仰向けになったままで、リザの母親は少し目を伏せる。それを見たラムロンは、直前までの神妙な空気を取り払うようにニッと笑い、己の胸をドンと叩いた。
「これから何か困ったことがあったら、俺に言ってください。病気でもなんでも、金の悩みだって解決します。っていうか、俺は金で解決することならなんでもできますから!」
「……なんだか胡散臭いですね」
「はは……そりゃあよく言われますが、持ち込まれた問題の解決率は十二割ですから、安心してくださいよ。この近くで亜人相談事務所ってのをやってますから、いつでも来てください」
口を動かし続けながら、ラムロンは懐から取り出した自分の連絡先をテーブルに放る。
と、そんな時だ。玄関の方からガチャリという音がする。続いて、ドタドタという慌ただしい足音。
「親孝行なお子さんが帰ってきたみたいですね」
ラムロンはリザとナフィの帰りを察すると、リザの母親が横たわるベッドから距離を取るのだった。
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