僕らの絆

「ぶーっんかさいだー!!」

「その前に中間考査だよ!」

「もう、テン下げなこと言わないでよメガネ」

 

 文化祭浮かれ女、しのぶがうみねの席からべーっと舌を出す。その標的は私の前の席の男子、楠本だ。

 彼はむっとした様子で、指先でメガネを押し上げる。

 ほんとうにメガネの似合う男だ。

 そして彼はしのぶのことを、しのぶんと呼ぶ。

 二人の間に何があったのか、私にはわからない。

 校則すれすれのとても明るい色の地毛、というスタンスで毎月丁寧にヘアカラーをしてピアスを開けているしのぶと、休み時間のほとんどを机に向かって授業の予復習をしている楠本ではどうしても共通項が見つからないが。


「しのぶんはこの中間考査がどれだけ大切か、分かってないだろ。全国的に成績が落ちるこの高校二年生の期間に、地道に、腐らず勉強しているかどうかで来年の今頃の心持に大きく差が出るんだ。今回のテストはその記念すべき一回目。勉強方法が間違っていないか、日頃の成果をはかる良いチャンスなんだよ」

「「ふうん」」

「だから君たちも浮かれてないで、ちゃんと勉強しないと」

「でもでも、高校二年生の文化祭だって一生に一回じゃんね」

 ねえ? しのぶが私を見て首を傾げた。

「まあね、高校生活の間で文化祭なんて三回しか経験できないんだし」

「そうだよ、今全力で楽しめなかった、来年はもっと楽しめないかもだしさあ」

「……俺は勉強するよ、勝手に楽しんでろ!」

「がんばれよ、楠本」

 

 私の声援におうっと応じて、楠本は再び机に向かった。すらすらと方程式を解いている。

 脳裏にちらっと、ああ、そろそろ私も数学の勉強しないと、赤点は取りたくないんだよなあ、という思いがよぎる。考査範囲は三角関数。グラフを描かせる問題から方程式まで幅広く出すぞ!と一之瀬が息巻いていた。


「ていうか、昼休みもうすぐ終わるけど、貝原どこいってんの?」

「うみねは、生徒会じゃないの? 文化祭準備って中間考査終わったらすぐだから、企画とか忙しいのかも」

「あーねー、超多忙だよね、う・み・ね」

 

 しのぶがウインクする。でも、とてもへたくそで決まっていない。マスカラで大きく見せた両目がひくひくしている。面白くて吹き出してしまった。


「なに、しのぶ。なにが言いたいわけ」

「あんなって、何気に貝原のこと名前呼びだよね」

 

 しのぶがちょいちょいっと指を動かして私に近くに寄るように催促する。

 しのぶは私の耳元で、小さくささやいた。


「まだ貝原のこと、好きなの?」

 

 うみね。うみねのことは好きだ。クラスで一番信頼している。喋りやすいし、一緒にいて楽しい。数学を教えてくれる。

 ただ、昔みたいな恋愛感情で接しているわけではない。

 そう、私は高校一年生の夏、うみねに恋をしていた。

 隣のクラスだったうみねと、一年たって隣同士の席になって、だんだんと恋愛感情は薄れて、信頼が強まっていった。だから好きだ。でも、しのぶの言うような、密かな好きではない。

 私は顔を上げてしのぶの目を見た。


「うん。私、うみねのこと好きだよ」

 

 少し声を張って言った。隠すことでもないからだ。私はうみねがいない学校生活はきっと今よりも楽しくないと感じるだろう。


「ありがとーあんな、僕、すごい嬉しいなあ」

「ちょ、貝原いたの!?」

「あ、おかえり」

 

 しのぶは私と貝原の顔をきょろきょろと交互に見て、少し顔を赤らめた。なんであんたが赤くなる、と言いたい。変な誤解を生みそうだ。予鈴がなった。「えーと、ちょ、またあとで!!」としのぶは去っていく。周りの机にいくつもぶつかっていて、気が動転している様子だ。代わりに、うみねが席に着いた。


「いや、やっぱ僕らの絆は本物だね」

「おう」

「いえーい」

 


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海を見に行く真夜中に君と笑っていられたらいいなって思ったんだ 明日飛鳥 @tell_suzuS

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