第39話 停止後の状況

――3日後


 転送装置のある場所は

 いつもより静かで閑散としていた。

 当日は共に連れて行く奴隷以外はこの場に来てはならないとエルミラに宣言されたためである。


 セレナスは奴隷を引き連れることなく、一人で待機していた。

 その姿は普段着ている白いローブ姿では無く、

 青い革で出来たレザーアーマーを着込んだ姿だった。


 しばらくすると、エルミラとレオネルが現れセレナスは跪いた。


「フロストハートの者よ。転送装置の上に立ちなさい」


 エルミラのその言葉にセレナスは頷き、言われた通り転送装置の上に立った。


「私の目を見よ」


 言われるがままに指示に従うセレナス、

 初めてしっかりと見たエルミラの顔は美しく、まるで女神を思わせるものだった。


「下位転送」


 エルミラがそう言うと、転送装置が起動してセレナスはその場から姿を消した。

 そして、エルミラはその場で体勢を崩し、目からは血が流れ落ちていた。


「エルミラ様!!」


 レオネルはエルミラに駆け寄った。


「大丈夫です。しかし、やはり負荷が大きいですね……レオネル、分断の祭壇が起動出来たら教えてください。最後にやらねばいけない事があります」


 そういうエルミラにレオネルは分かりましたと頷き、二人はその場を後にした。


 下位転送……

 これはソヴリンスター家のみに発現した下位掌握とは別の魔法である。

 対象が自身以下の階級であれば年齢問わず転送装置から最下層に転送させる事が出来る。

 これにはインターバルが存在し、1年間使用する事が出来ない。


 膨大な魔力を使用するほか、眼にかなりのダメージを追う。


・・・

・・


――セレナス転送の日から数日後


 ロボット、D-85を見つけてから約1年半が経ち、ロフルは18歳になっていた。


 施設を停止した後、数日間が道場にて皆と共に過ごしたが、


 ハナが


「そろそろ下層の人達が心配だから帰るよ。お兄ちゃん、時間が合ったら帰って来てね?」


 といって、リターンで帰還した。


 それと同じくらいのタイミングで、フーチェもマグたちが心配だと開眼の祭壇へと戻った。


 その後、俺は道場でロボットについて調べたり、

 最下層の地域調査をしたりしていた


「二輪、リターン」


――シュゥゥ


「あ、ロフル様だ!」


 リターンでサンヘイズ村に帰ると、いつも広場で元気に遊んでいる子供達に出迎えられる。

 帰ってきたなって気がして嬉しい。

 そして広場のベンチで座っていた村長に


「ただいま! 今日も色々持ってきたよ」


 と伝えグリムホーフやスライムボールの肉、皮などの素材をその場で広げた。


「おおロフル殿。いつも助かるわい。さ、皆で貯蔵庫に運ぼう」


 村長がそう言うと、子供達ははーいと元気よく返事をし、一斉に素材を運び始めた。

 村では皆に英雄の様に扱われて、少し恥ずかしいがそんな元気な姿を見られて嬉しく思った。

 本当はフーチェ達も紹介したかったが、リターンでは戻れない。

 0.0施設にハナが落ちてきた垂直な崖はあるが……飛び降りる事は出来ても、登るのは難しい。


 そして、結局去年は洗礼の試練は発生しなかった。

 その為試練に行かなかった子供達は、手の甲の模様が現れないと思いきや、突然浮き上がり魔法輪を習得する子などが現れた。

 個人差はあるようだが、別に洗礼の試練で最下層に行かなくとも魔法が使えるようになる場合があるらしい。


 このサンヘイズ村以外も、大半が急に増えた子供達を村一丸となって育てているようだ。

 中には悪事を働くような者をいるが、そう言った輩にはハナ率いる守衛兵隊が対応し、治安維持に努めている。


 また、最下層の調査も順調に進んでおり、大まかなサイズは把握している。


 調べるにつれ、この世界の形が何となく見えてきていた。


 最下層は下層より広大な面積を有しており、下層はそれより面積が狭いようだ。

 二層共に四方すべてに先に進めない壁が存在しており、正方形の形をしている。


 そして、0.0地点だけは同じ軸に存在している。

 多分、中層上層とこの0.0地点だけは垂直につながっているのだろう。


 きっと横から見たら直角三角形で上から見たら正方形が重なるように見えるのだろう。


 壁……その先には何かあるのだろうか?

 気になる部分ではあるが、調べる術は無い……。


「おかえりなさいロフル!」


 家に到着すると、母と弟のサンクが出迎えてくれた。


「お帰りお兄ちゃん! 今日はずっといるの?」

「ああ。戻るのは明日の昼頃かな」


 サンクも既に15歳になっており、幼さは抜けつつあった。

 今は守衛兵隊見習いとして、日々訓練を行っているようだ。


「さぁ召し上がれ」


 母がグリムホーフで作ったスープなどの料理、パンなどをテーブルに運んできてくれた。

 母の姿は、5歳の時見た姿と殆ど変わらない20歳台の容姿をしていた。

 久しぶりに帰ってきた時、記憶の姿と全く一緒で驚いた。


 とはいえ、一番驚いたのはこの前年齢を聞いた時、母は50過ぎてから数えていないと言われた事だ。

 もう俺が知っている"人間"という生物で年齢を図らない方がいいのかもしれないな。

 寿命もよく分からないしな……。


 そもそも、この世界では年齢という概念に無頓着な人ばかりである。

 村長は自分の年齢は分からないと言うし、司祭には年齢なんて変な事を気にするんだなと不思議がられた程だ。


「おお、美味しそう! 頂きます」


 グリムホーフや塩などを持ち込むようになってから食のクオリティは一気に上がった気がする。

 母の作るクリーミーなスープに、この肉はとても合っている。

 煎餅が一番のご馳走だった時とは大違いだ。

 とはいえ、今でもあの煎餅は好物だが……。


「ハナはどこに遠征中? てか父さんは?」

「ハナは北部に行ってみたいね。父さんは祖父の家に子供二人と遊びに行っているわ」

「そうだったんだね」


 子供二人とは俺の妹達の事だ。

 去年生まれたばかりで、まだ1歳に満たない双子だ。


 まだまだうちの両親は元気なようだ。


――翌日 昼前


「じゃぁそろそろ最下層に戻るよ」

「行ってらっしゃい。気を付けてね」


 母のお見送りを背に俺はまた最下層に戻った。


・・・

・・

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