第7話 デレデレ、不知火さん②
「私レジャーシート持ってきたんだ! ここら辺で広げて、お弁当食べよ!」
「ピクニックみたいでいいね。お弁当、袋から出していいかな?」
「うん! これがねー、うさぎ肉のテリーヌでしょー。あと、鴨肉のマーマレードソースと……白身魚のポワレ!」
「だいぶ斬新なおかずのチョイスしてきたね」
「あと、八宝菜と、春巻き。魚の煮付けとー、唐揚げとポテト。あ、林くんおにぎり何十個食べる?」
「残念ながら、俺フードファイターじゃないんだよ」
四次元ポケットのように、次から次へとおかずが出てくる。不知火さんは謎に興奮しながら、一品ずつ楽しそうに説明している。
「林くんの好みわからなかったから、もう片っ端から作ってきたんだ!」
「それにしてもクオリティ高い……不知火さんは料理が得意なんだね」
「得意かどうかはわからないけど、作るのは好きかな。特に、今日は大事な人に食べてもらえるから楽しくて……えへへ」
はにかみながら笑う横顔から幸せオーラが溢れている。俺とちゃんと釣り合っているのか不安になってしまうほど、純粋という言葉が似合う人だ。
「でも、こんな量……どれだけ早起きしたの?」
「寝てないよ?」
「……ん?」
「夜通し作ってたら、もう朝だったから! さっ、食べようか!」
「そんな軽いノリで食べ始められない事実を知ったんだけど。不知火さん、大丈夫なの?」
「あはは、大丈夫、大丈夫。ちょっと、視界が霞んでフラフラする程度だから」
「それ、大丈夫じゃないから」
なんとなく普段よりテンションが高いとは思っていたが、ナチュラルハイだったか。
キャラ作りがなくなろうと素も結構ヤバいから、本当に気が抜けない娘だ。
「とりあえず少しでもいいから仮眠とって。そのあと、お弁当にしよ」
「えー、いいよ、いいよ! 私なら全然大丈夫だから!」
「……ねえ、不知火さんが俺のことを大事に思ってくれてるように、俺も不知火さんのことが大事なんだよ。言ってることわかる?」
「……はい」
「じゃあ、今するべきことは?」
「……でも、お弁当っ――」
「今するべきことは?」
「ちょっと、寝ます……」
マジトーンで諭したからか、さすがに空気を読んだみたいだ。割と頑固なところもあるからこれくらいプレッシャーかけないと……でも、思ったよりしょんぼりしてるな。
「……不知火さん、ほら。おいで」
「えっ、どこに?」
「枕なんかないし。俺の足使っていいから」
「……足? ……ひひひ、膝枕ですか!?」
「いや、まあそうだけど」
「こ、ここれが噂の! 胸キュン、男女逆転膝枕ですか!?」
「何そのワード。絶対、噂になってないよ」
「ざ、雑誌に!」
「書いてあったのね。もう読むのやめようね。ほらっ、遠慮しなくていいから」
少しパニック状態の不知火さんの手をひきを、半ば強引に自分の太ももに彼女の頭をのせる。
「あわ……あわわわわ!?」
「あわあわしなくていいから、落ち着いて」
「む、むむ無理だよ! こん、こんな状況でっ……!」
「じゃあ、目つぶって。それで、手繋ごうか」
全く落ち着く素振りのない彼女の手を握りしめる。不知火さんは、恥ずかしさを堪えるように目を閉じた。
「ねえ、不知火さん。この幸せな時間は、いつまで続くのかな」
「ど、どうしたの、急に?……えっと、私たちがおじいちゃんおばあちゃんになるまでずっと……」
「ははっ、それはもうプロポーズみたいだね」
「わ、私は……本気ですよ」
「……これが、噂の胸キュン、男女逆転プロポーズですか」
「プッ、なにそれ……林くんも冗談なんか言うんだ。えへへ、なんだろ。とにかくね、私……はや……す……き」
「不知火さん?」
不知火さんは寝息をたてている。思ったよりスッと落ちたな。身体は限界だったのだろう。
整った顔と反した無防備な寝顔が可愛くて、このまま唇を重ねたい衝動に駆られる。
そんな愛欲に必死に抵抗しながら、俺は愛おしさを伝えるように、彼女の頭を何度も何度も撫で続けた。
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次回、最終話です。
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