第6話 デレデレ、不知火さん①

「あ、林くん! えっと、えへへ。えへへへ」


「いや、俺も今来たところだよ」


「そっか! あのね、あのー、えへへ。えへへへへっ!」


「そうだね、久々のデートだから嬉しいね」


「うん、それでねっ! あのね……えへっ、えへへ!」


「何言ってるかわかっちゃう俺もあれだけど、ちゃんと喋ろうね不知火さん」



 正式に俺達が付き合い初めてから二週間が経った。あれから不知火さんが変な行動を起こすことはなくなった……が、俺といる時は終始このような状態でデレモードに入っている。

 まあ、それは全然構わない。これはこれで、可愛いし。


 ただ、最近一つ疑問に思っていることがある。

 なぜ、俺のことがそんなにも好きなのか?



 俺達の関係が始まったのは、不知火さんがアクションを起こしてくれたからだ。だが、そこに至るまで俺達に接点はほぼなかった。


 俺に好意を抱いた理由を本当は聞きたいのだが、さすがに「俺のどこが好きなの?」なんて頭お花畑発言ができる訳がなく、聞けずじまいでいる。



「あ、林くん! 今日ね、お弁当作ってきたの!」


「それは楽しみだね。いい天気だし、どこか公園でも行って食べようか」


「うんっ! ちょっと作りすぎちゃったけど沢山食べてねっ!」


「ははっ、おにぎり10個くらい入ってるのかな?」


「30個だよ!」


「冗談で言ったのに、その3倍入ってるとは思わなかったよ」


 相変わらず予想の斜め上の行動をしてくる子だ。彼女の腕には、確かにバカでかい手提げ袋がぶら下がっていた。


「重いでしょ? 俺が持つよ」


「えっ!? いいよ、私が勝手に作ったんだし!」


「いやいや、不知火さんが頑張って作ってくれたんだから。これくらいさせてよ」


「……えへへ、やっぱり林くんは優しいなあ」


 モジモジしている不知火さんから、花柄の手提げ袋を受け取る。

 重っ……なにこれ。よく、表情一つ変えずに持ってきたな。


「やっぱりって……俺そんな優しい人じゃないと思うけど」


「そんなことないよー。私、林くんより優しい人に会ったことないもん」


「不知火さんは、その……俺の優しいところが好きなの?」


 流れで、ついに聞いてしまった。

 なんとも野暮な質問だが、気になるものは気になる。


 不知火さんは、恥ずかしそうに視線を逸らしながら答えた。


「優しいところ……も、ですかね」


「……も?」


「だから、優しいところだけじゃなくて……、その、全部が。す、すすす、好き……あわ、あわわわわわ!?」


「自分で言っといて、パニくるのやめようね」


 全肯定というなんとも嬉しい返答だが、尚更そこに至るまでの経緯が謎だ。

 恋に恋するようなタイプ……ではあるな。でも、本質的にはしっかりしている子だ。意味もなく俺を選ぶような人ではないし。


「でもさ、不知火さんが話しかけてくれるまで俺達接点ほぼなかったよね。俺のことなんか全然知らなかったでしょ?」


「そんなことないよ? どんな人なのかは、結構わかってたかな。ずっと見てたし」


「……ずっと見てたの? なんで?」


「それはね、秘密です」


「秘密?」


「大事な想い出だから、誰にも話さないようにしてるんだー」


「……なんだか、よくわからないな」


"わからなくていいのです"と言わんばかりに、不知火さんは微笑む。


「林くんのことは、四六時中見てたんだよー。私の視線に、全然気づかなかったけど」


「俺周りあんまり気にしないタイプだから……」


「私のこと変わってると思ってるだろうけど、林くんも割と変な人だからね?」


「うっ……」


 痛いところを突かれてしまい口籠った俺を見て、何故かドヤ顔をされる。不知火さんに優位に立たれると悔しいものがあるな。


「さっ、立ち話もなんだし行こうかっ!……ところで、林くんは今日もあれですか?」


「あれって?」


「今日も、不知火さんと手を繋ぎたいですか?」


「……まあ、あれですね」


 またもやどこか勝ち誇ったような顔をしている不知火さんの手を取り、握りしめた。


「えへ、えへへへへへ」


 デレデレ状態へと戻った不知火さんの手をひきながら、俺達は公園へとゆっくり歩いて行った。

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