第3話 ヤンデレ、不知火さん②

「ねえ、不知火さん。よかったら、今日一緒に帰ろうか」


「あわわわわ……わわ、わ? わ、私と一緒に帰る?」


「うん。なんか恥ずかしくて学校で話せてなかったし。色々と話しながら帰ろうよ」


「ほ、ほんとに? ……嬉しい。すごい嬉しい! あのね、実は私も一緒に帰ろうって誘おうと思ってたの。手首にカッターあてて、"一緒に帰ってくれなきゃ掻っ切るから!"って叫びながら」


「それはお誘いじゃなくて、脅しって言うんだよ」


 不知火さんは隠しきれない嬉しさで頬を染めながらも笑っている。こう見ると、本当にただの可愛い女の子だ。

 そもそも、この適当雑誌作ってるのはどこの出版社だ。諸悪の根源にクレームでも入れるか。


「あ、不知火さん。一緒に帰るかわりに一つ条件つけていい?」


「じょ、条件つき!? ……え、えっちなことですか?」


「違いますね」


「となると……お金?」


「俺のイメージヤバくない? とりあえず条件は一つ。いつも通りの不知火さんでいてほしいんだ」


「いつも通り?」


「キャラ作ってる不知火さんも面白いけど、やっぱりいつもの不知火さんがいいかな」


「わ、わかった。私、全然いつも通りだし林くんが何言ってるのか意味わかんないけど、そうするね!」


 この人、ここまできてもまだシラきるつもりか。思ったよりも頑固だな。

 まあ、雑誌参考にしてキャラ作ってましたなんてバレたら普通に恥ずかしいもんな。なら、もっと隠せよと思うが。


「……でも、林くん本当に嫌じゃない? 二人で一緒に帰ったりすると周りからなんか言われるかも」


「なんかって?」


「その……"ヒューヒューっ!"とか、"よっ!お熱いね、お二人さんっ!"とか?」


「そんな昭和のノリで茶化してくる高校生いたら嫌だね」


 俺に対して気を遣っているのか、不知火さんは今いち踏ん切りがつかないようだ。


 だが、よくよく考えてみると彼女はもともとこういう人種だ。普段は大人しめで目立つことはない。どこか自分に自信がないようで、周りには常に気を使っている。


 だから、俺にだけ見せてくるこの側面は意外だった。だいぶヤバい部分も垣間見えているが、それは彼女の不器用さと実直さの象徴だ。


 そして、そんな可愛らしい彼女に俺は特別な感情を抱き始めていた。


「あのさ、周りがなんと言おうと俺はどうでもいいよ。俺は不知火さんと一緒に帰りたいし」


「……林くんはそういう人だよね。相変わらずカッコいいね」


「相変わらず?」


「じゃ、じゃあさ、私からも一つ条件出していい?」


「いいけど、どんな?」


「えっとね。今日だけじゃなくて。明日からも一緒に帰ってほしい……とか、どうでしょう?」


 思いがけない提案と、恥じらいながら上目でこちらを伺う表情が可愛くて少し間があいてしまった。


「中々、いい条件だと思うよ」


 ワンテンポ遅れて返した言葉に、不安そうにしていた不知火さんの顔が満面の笑みに変わる。表情だけでも忙しい人だと思いながらも、つられて自分も笑っていた。

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